高濱:多くの人は、よしがんばるぞとは思えても、なかなか続きませんよね。前田さんがモチベーションを保ち続けられた理由は何ですか?

前田:それはもちろん、心底、欲していたからです。やろうと思ったら全身全霊をかけてやりますから。あと少年時代は、ほめられたことが力になりました。先生からノートの取り方をほめられたことや絵がうまいと言われたこと、兄に通知表を見せたらすごく喜んでくれたこと。そんないくつかの、素朴で些細ではあるけれど“自分を肯定してくれた”シーンが僕の中に今も鮮やかに残っています。

高濱:大人びた経験が豊富な前田さんでも、いや、だからかな。ほめられた記憶がいい形で作用しているんですね。

前田:母の思い出もそうです。母は喜怒哀楽の激しい人でしたけど、僕は叱られた記憶はほとんどなくて、むしろむず痒くなるくらいに、ほめられた記憶が残っています。小学生なのにお腹の筋肉がちゃんと割れてるなんて大したもんだ!とか、脚の形や指の形が最高だ!とか、本当に賢い、選ばれし子だ!とか、根拠もないのに自信たっぷりと(笑)。

高濱:ユニーク! いいほめ方ですね。

前田:母のことは、ひとつひとつが色つきのシーンで蘇ります。母こそ歌が大好きで、美空ひばりのファンでした。涙を流しながら「川の流れのように」を歌うTVの中の美空ひばりを、同じように涙しながら見つめている母。この強烈な映像記憶は、僕自身、エンタメビジネスに携わる上で、本当に大きな支えになっています。

高濱:前田さんの記憶は、ひとつひとつが“絵”なんですね。

前田:そうですね。意外と思われるかもしれないのですが、自分自身の事を、典型的な右脳人間だと分析しています。本来は、あ、これやりたい、とひらめいたら、それこそ根拠のない自信を持って前につき進んでしまう。とても直感的です。でもそれだけではもちろん周囲が腹落ちしないので、そこに左脳的ロジックを紐付けていきます。SHOWROOMを起ち上げたときも、「路上パフォーマンスで感じた幸福感をネット上で再現したら凄い事になる」という直感が働いたのですが、これだけでは誰も説得できず、巻き込めない。だから、右脳的直感やパッションをベースにしつつも、そこにデータや事例分析などの左脳的な補強を加え、理路整然と説得します。

高濱:前田さんは、怒涛の人生を圧倒的な熱量で生きている人だと思っていたけど、実はすごく冷静なのかもしれない。

次のページへ逆境で負ける人、負けない人の違いとは?
1 2 3 4 5