イラスト/小迎裕美子(AERA6月21日号)
イラスト/小迎裕美子(AERA6月21日号)

 コロナ禍で直接会えないなら、オンラインでずっとつながろう。だって無料だし。そんな恋愛をするカップルが増えている。気取らず楽に付き合えるのもポイントだ。AERA 2021年6月21日号から。

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*  *  *

 九州の飲食店に勤務する女性(23)は、休日は20時間以上、平日は十数時間、彼氏との通話をつなぎっぱなしにしている。女性は深夜、彼氏の声で目覚めた。

「ただいま」
「おはよう。お仕事お疲れ様」

 女性は2歳の子どものシングルマザーで2人暮らし。しゃべりかけた先は、布団の脇に置いたスマホだ。帰宅した彼氏から音声通話アプリで話しかけられたのだ。寝ぼけ眼の女性はイヤホンをつけてしゃべる。

「今日は遅かったね」

■スマホから彼のいびき

 彼氏の話を聞きながら、自分の話もする。「私はこんなことがあってさー」に、「大変だったね」と彼が打つ相槌が心地よい。取り留めなくしゃべっていると、また眠くなってきた。気づいたら朝。スマホからは、彼のいびきが聞こえる。

 朝食を作って、食べていると、彼も起き出したようだ。

「おはよう」
「子どもちゃんの声が聞こえる。かわいいね」

 この日は二人とも休日。女性は子どもの世話をして、家事をこなす。淡々と手を動かしていたが、不意に話したくなった。

「ねえ、何してるの?」

 話しかけると、すぐそばで彼の声がした。

「ゲーム」
「いいな、一緒にしようよ」

 女性は通話しながら、スマホを画面共有して、一緒にゲームをする。ひとしきりプレイした後、また家事に戻る。特に話すことがあるわけではないが、通話はつないだまま。夕方、急にスマホから歌声が聞こえた。

「どうしたの?」
「YouTube聞いてたら、歌ってた」

 お茶目な彼に笑った。二人は仕事と風呂の時間以外、通話している。女性はこう話す。

「最初はオンラインゲームをしてしゃべる仲だったのですが、昨年秋ごろに深夜に2人でオンラインゲームをしたとき、寝落ちしちゃって。それから、夜は切らずに一緒に寝ようという話になりました」

 子どもはかわいいけど、まだ会話をするのは難しい。

「大人になるとしゃべる人が少なくなるじゃないですか」

 彼氏の住まいは東北。コロナ禍で直接会うことは難しく、一度も会ったことはない。

 オンライン同棲──。恋人たちがスマホやパソコンで、電話やビデオを長時間つなぎっぱなしにして過ごす。構えて話すわけではないから、ずっと無音でも気まずくない。食事をとり、スマホを触り、本を読む。生活音が筒抜けのなか、しゃべりたくなれば「あのさ」と切り出す。電話代無料で、アプリを使って話せるようになってから、こんな恋愛が現れた。

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孤独を癒やしてくれた