竹内洋岳さん提供
竹内洋岳さん提供

荻田:北極海は数千メートルの深さがある大きな海で、表面2メートルくらいが凍っているだけだから、氷が動くんです。朝起きたら自分がどこにいるかわからなくなっていることもある。だから、北極に比べて南極は楽(笑)。陸地だから流されないし、氷も割れない。夏に行くから寒くもない。ホッキョクグマもいないし。

竹内:ホッキョクグマは確かに怖い。でも、そういう意味では北極は生命感があるんですね。

荻田:そうですね。南極は細菌やウイルスレベルで何もいないけど、北極は違います。ホッキョクグマは厄介ですが、見かけるとウキウキもしてきます。

荻田泰永さん提供
荻田泰永さん提供

竹内:ヒマラヤはベースキャンプ(登山の拠点となる場所)にはいろいろいるけれど、8千メートルともなればなんの生命感もありません。人間が生きていることすら不自然です。

荻田:南極と北極が入り乱れた構図がヒマラヤにはあるのかもしれませんね。

■目の前の北極海に恐怖

──安全地帯から一歩踏み出し、リスクのなかに身を置く。時に引き返す決断をすることもある。二人はどうリスクと向き合い、決断してきたのか。

竹内:ベースキャンプを出るときは怖いけれど、一歩踏み出しても一歩戻れば安全圏に帰れます。常に後ろを見ながら、今だったら戻れる、こうすれば戻れる、を繰り返しながら頂上に達し、帰ってきます。荻田さんの冒険ではスタート地点まで飛行機で行って、飛行機が帰った瞬間にそこが安全圏ではなくなりますよね。私にとってスタート地点は一番安全な場所ですけれど、そうではない。

荻田:飛行機が去って目の前の北極海を見たとたんものすごく怖くなり、その場で20分くらいわんわん泣いたこともあります。でも、竹内さんがおっしゃっていた「一歩ずつ振り返りながら」という感覚もわかります。

竹内:極地でも、救助に来られる場所と来られない場所がありますよね。

荻田:「これ以上進めば引き返せない」地点を「ポイント・オブ・ノーリターン」と言いますが、進んでいいのかどうかは常に考えます。登山の場合、「頂上」というわかりやすい目標が一番の危険地帯でもありますね。「登り」「登頂」「下山」をどうとらえていますか?


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「勇気ある撤退」なんておかしな話