(写真上)たけうちひろたか・プロ登山家、立正大学客員教授。1995年から足掛け18年かけて、世界に14座ある8千メートル峰すべてに登頂/(写真下)おぎたやすなが・北極冒険家。2000年から北極冒険を続け、16年にカナダ最北の村からグリーンランド最北の村まで、世界初の単独徒歩踏破。
(写真上)たけうちひろたか・プロ登山家、立正大学客員教授。1995年から足掛け18年かけて、世界に14座ある8千メートル峰すべてに登頂/(写真下)おぎたやすなが・北極冒険家。2000年から北極冒険を続け、16年にカナダ最北の村からグリーンランド最北の村まで、世界初の単独徒歩踏破。

 世界の8千メートル峰すべてに登頂した登山家・竹内洋岳(ひろたか)さんと、20年にわたり北極行を続ける冒険家・荻田泰永(おぎた・やすなが)さん。異なる冒険スタイルの二人が語り合った、AERA 2021年2月15日号の記事を紹介する。

【登山と極地、いわば「垂直」と「水平」を極めた二人の写真の数々はこちら】

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──登山と極地。いわば「垂直」と「水平」。それぞれの冒険の違いとは。

竹内:極地と山って、よく混同されますよね。同じようなウェア着てるし、雪だし。

荻田:「北極って酸素薄いんですか?」とよく聞かれますよ。でも北極は足元が海だから、歩いていても「航海」のような要素が強い。そして一番の違いは、山は突然死ぬってことだと思う。30秒前まで元気だった人が、雪崩とか滑落とか、あっという間に死んでしまうことがありますよね。竹内さんも雪崩で大けがをされたことがあると。

竹内:2007年、パキスタンでのことです。地面が動いたと思ったら、あっという間に300メートル転落した。背骨が折れて肺が潰れながらなんとか助けられたけれど、同行者が2人亡くなりました。重篤な高山病で突然意識を失ったこともあるし、小一時間前に頂上で抱き合った仲間が、滑落して死んでしまったこともあります。

荻田:極地だとそういうことはあまりなくて、死ぬとしたら、ジワジワと死んでいきます。

竹内洋岳さん提供
竹内洋岳さん提供
荻田泰永さん提供
荻田泰永さん提供

■目覚めたら「どこ?」

竹内:極地の冒険行を読むと、真綿で首を絞められるような恐怖を感じます。山でも悪天候に閉じ込められることはありますが、目に見える恐怖です。一方、極地では自分でも気づかないうちに追い込まれて、ゆっくり絞め殺されていく。いつから危険だったのか、今危険なのかわかりにくい。山とは恐怖やリスクのあり方が違うと思います。

荻田:確かに、極地冒険ではリスクゼロの安全地帯もなければ危険度100の場所もありません。ずっと70くらいのリスクのなかに身を置いています。

竹内:山では今はものすごく危険な場所でも、一歩進めば安全地帯ということがある。振れ幅は大きくても、安全地帯があることに助けられます。「流される恐怖」も印象的でした。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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