志葉玲さん(47)/昨年4月、ウクライナ東部のハルキウ州での取材の様子。「戦争の実態を知ってもらいたい」。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和』など(写真:本人提供)
志葉玲さん(47)/昨年4月、ウクライナ東部のハルキウ州での取材の様子。「戦争の実態を知ってもらいたい」。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和』など(写真:本人提供)

 中東の紛争地帯をはじめ、多くの戦場を歩いてきたジャーナリスト・志葉玲さん。戦場は常に危険と隣り合わせだが、自らの信条と命を両立させるルールを設け、現場を取材し続けている。AERA 2023年6月26日号の記事を紹介する。

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 世界各地で起こる戦争や紛争を目撃し、命をかけて文字や映像、写真で告発する。戦場ジャーナリストは、民主主義社会で重要な役割を果たしてきた。

 志葉玲さん(47)もその一人だ。大学生の時、ミャンマーから日本に逃れてきていた同年代の女性と会ったことがこの道に進むきっかけとなった。彼女から、住んでいた村で起きた住民虐殺の話などを聞き、海外に目が向いた。

 03年3月、27歳の時。アメリカがイラク戦争を始めた。イラクは1990年の隣国クウェートへの侵攻以来、西側諸国から厳しい経済制裁を受け、子どもを含め多くの市民が死んでいた。この上、戦争が起きたらイラクの人々はどうなるのか。

 何が起きているか、行って伝えなければ後悔する──。

 突き動かされ、空爆下のイラクの首都・バグダッドに入った。以来、イラクやパレスチナなど、主に中東の紛争地帯で取材を重ねる。この間、ウクライナにも2度行き、東部ドネツク州の激戦地バフムートなどを取材した。

 戦場で犠牲になることは覚悟している。だが、高校生の娘がいて、こう話す。

 「信条と命を両立させる」

 そのため、戦場では三つのルールを自らに課している。

 第一に「民衆の側に立つ」。戦争で苦しむのは最も弱い立場の民衆であり、その人たちの現状を伝えることが重要だからだ。

 第二に、「できるだけ危険な場所に行く」。危険な場所であればあるほど、伝えなければいけない真実があるという。

 第三は、「必ず生きて帰る」だ。ギリギリまで危険な場所に行くが、必ず生きて帰ると決めている。

「そのために、事前の打ち合わせを入念に行い、取材中は刻一刻と変わる最新の情報を得て、常に退路を確保しています」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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