カスタマーハラスメントの中には苦情を装いながら、特定の従業員につきまとうクレームストーカーも問題化している。身を守るための対策を専門家に聞いた。AERA 2023年6月19日号より紹介する。
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近年では、美容師やアパレル店員がSNSをつかってインフルエンサー化する事例も増えている。発信力を高めることで顧客獲得につながるメリットもあるが、裏側にはリスクもある。
「執着心を持った人は執拗に検索をする傾向にあるので、無防備な投稿は注意が必要です」
そう指摘するのは、クレームと消費者心理について研究を続けている関西大学社会学部の池内裕美教授だ。インスタグラムやツイッターを見れば、店員の人柄はもちろん、生活パターンや居住エリアを特定することもできる。そこからストーカーに発展するケースもあるという。
「苦情を装いながら、特定の従業員につきまとうクレームストーカーも問題化しています。時間もお金も投資しているから、自分は特別だと思いたい。同性同士であっても、店員と客という距離感をうまくとれない人はカスハラ化しやすい傾向にあります」
個人情報をしゃべり続けるなど、過度な自己開示をする人はストーカー型のカスハラを起こしやすいという。
厚生労働省は2020年1月、カスハラ問題の指針を策定。企業に対し、カスハラを受けた従業員を守り、被害を防止することが望ましいと取りまとめた。
たとえば、大手コーヒーチェーンの「タリーズコーヒージャパン」は22年5月から、漢字とローマ字を併記していた店員の名札をイニシャル表記に切り替えている。SNSでの従業員を名指しした投稿を防ぐなど、プライバシーを守ることにつながっている。
一方で、「指針」だけではうまくいかない現状もある。
30代女性は昨年末、約8年勤めた航空会社でのグランドスタッフの仕事を退職した。責任者として顧客対応に奔走する日々。怒りにまかせて客がカウンターをたたいたり、暴力的な言葉を浴びせかけられたり。自分よりもはるかに背の高い中年男性から、
「ぶっ殺すぞ!」
と吐き捨てられ、身の危険を感じたこともある。