見るのも楽しいレシピ集。でも母の日ギフトで贈った夫は家族にダメ出しをくらい……(画像/筆者提供)
見るのも楽しいレシピ集。でも母の日ギフトで贈った夫は家族にダメ出しをくらい……(画像/筆者提供)

 先日5月14日は母の日でしたね。全世界の母の皆さん、おめでとうございました。日本でも国民的イベントとして認知されている母の日ですが、発祥の国といわれるアメリカでは、日本とはちょっと違った形でお祝いされます。その違いには、母親という存在が社会でどう位置づけられているかの違いがそのまま表れているかのようです。

 まずアメリカでは、母親である人には誰もが「Happy Mother’s Day!」とお祝いするのが一般的です。アメリカ人と結婚し、出産して、初めてアメリカで迎えた母の日。アメリカ人の義母にお祝いのメッセージを送ろうとしたら、逆に「初めての母の日おめでとう!」とグリーティングカードとプレゼントをもらって驚いてしまいました。義母だけでなく、義理の妹弟や叔父叔母も次々お祝いのテキストをくれて、出かけた教会でも「この場にいる母親の皆さん、ご起立を。拍手を送ります」と全員でお祝いし合い、初めての母の日はとても思い出深いものとなりました。

 日本の母の日では、お祝いする相手は自分の母親だけ、もしくは義理のお母さんくらいではないでしょうか。アメリカでも本来、母の日創始者のアンナ・ジャービスは個人的なお祝い事を想定していたそうですが、現代のアメリカでは社会全体で母親という存在を祝福し、讃える文化になっています。私は母の日を境に、我が子の母親だけではなく、社会的に母なる者となったことを自覚しました。また母への敬愛は非・母から母なる人々への一方通行ではなく、当人たち同士でも行います。母としての喜びと苦労をお互い分かち合うのです。日本では出産すると社会から孤立してしまうと問題視されがちですが、私はアメリカで母親になり、むしろ初めて社会とつながることができたような感慨を覚えました。

 もうひとつアメリカの母の日が日本と少し異なると感じるのは、贈る物の内容です。初めての母の日、アメリカ人の夫は私に分厚いレシピ集を贈ってくれました。食べることが好きな私は喜んで受け取ったのですが、義母と義妹はそのプレゼントを見て夫を叱りました。母の日にレシピ集とはなんたるステレオタイプ、これを読んで自分に料理を作れという暗示か、今すぐ別のプレゼントを買ってきなさい! とやり直しを命じたのです。義母と義妹の監修のもと、夫は後日ちょっといいネイルセットをくれました。

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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母になってもひとりの女性として自由で