調査をするうちに伊藤さん自身の生活もムラブリ的に変化してきた。最初はムラブリに「ものがとても多いね」と言われたが、今や日本にいても持ち物はリュック一つに入るだけ。服は外用と寝巻きを1着ずつにふんどし2枚、足元は一年中雪駄を履いている。

 住まいも東京と関西では友人宅に泊まり、島根県浜田市の実家では山の中に自分でドームを建てた。タケノコを掘り、ヨモギをつんで食べている。目指すのは、どこに行っても生きられる、非定住型の自活研究者だ。

 ムラブリの価値観が浸透したというより、自分が本来持っていた性質が現れてきた。もともと、ものに執着がなく、時間を守るのが苦手なのんびりした子どもだった。

「中学、高校と進み、特に大学と大学院では研究者として独り立ちするために自分を訓練してきた。それが子どものときからの性質を抑圧していたことに気づきました」

 生活が変わると人間関係も変わり、話が合わなくなって付き合いが減る一方で、不思議と話の合う人が現れた。

 15年研究を続けられたのは、本来の自分が否定されないムラブリの人と生活が自分に合っていたからだと振り返る。

 今後もムラブリの研究を?

「そうですね、死ぬまではやるかな。研究には終わりがない。それに彼らはずっと友だちですから、たまに遊びに行くぐらいの感じで続けられればと考えています」

(ライター・仲宇佐ゆり)

AERA 2023年5月15日号