スペースX社の超巨大打ち上げシステム「スターシップ」(右)と、種子島宇宙センターから打ち上げられたJAXAの「H3」[写真:SpaceX提供(スターシップ)、JAXA提供(H3)]
スペースX社の超巨大打ち上げシステム「スターシップ」(右)と、種子島宇宙センターから打ち上げられたJAXAの「H3」[写真:SpaceX提供(スターシップ)、JAXA提供(H3)]

 スペースXの新型ロケット「スターシップ」とJAXAの「H3」は、ともに打ち上げに失敗した。JAXAに期待する人々が危惧するのは、今後の対応だという。AERA 2023年5月15日号の記事を紹介する。

【ロケット打ち上げ失敗事例はこちら】

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 4月20日、イーロン・マスク氏が率いるスペースX社は、史上最大の打ち上げシステム「スターシップ」の初テストフライトに臨んだ。同機は高度39キロまで上昇したが、打ち上げから約4分後に異常なスピン運動をはじめたため、地上管制が指令破壊を決断。機体は炎上しつつ海上へ墜落した。

 この機体は、第1段であるブースター(個別名称は「スーパーヘビー」)と、宇宙船を兼ねる第2段「スターシップ」から構成される。両機が統合された際の全長は120メートル。それはアポロ計画で使用された過去最大のロケット「サターンV」(全長110・6メートル)をしのぎ、レインボーブリッジの主塔(126メートル)に迫るほどの巨体。質量は推進剤だけで4500トンを超える。

 日本時間の同日22時33分、第1段ブースターに搭載されたラプターエンジン33基が点火されると、轟音とともに離陸を開始。しかし、エンジンの噴射による衝撃が想定以上に強力だったため、パッド(射場)のコンクリートが巻き上げられてエンジンを直撃した。その結果、離陸と同時にエンジン3基が停止し、上昇途中で同基が爆発する様子も確認されている。

 ただし、機体はさらに上昇し続け、離陸55秒後にはマックスQ(最大動圧点)を迎えた。マックスQとは、急激な加速と大気圧によって機体にもっとも負荷が掛かる瞬間であり、打ち上げにおける最初の関門とされる。スターシップはこれをクリアした。しかし、その前後でさらに3基のエンジンが停止。計6基のエンジンとその推力を失った。

■破壊されなければ勝利

 スターシップは、スペースX社の私設基地「スターベース」(テキサス州南東沿岸)から東へ打ち上げられた。当初の予定では打ち上げから2分52秒後にブースターを分離、第2段のスターシップだけが高度150~250キロの宇宙を航行する予定だった。90分で地球をほぼ1周し、ハワイの北西100キロの海上に着水するはずだった。

 しかし、予定タイミングを過ぎてもブースターは分離されず、やがて機体はスピン状態に。そのため地上管制はFTS(飛行中断システム)を起動。推進剤タンクが破壊された機体は炎上しつつメキシコ湾に落下した。

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