「においって感じない人とのすり合わせが難しいんです。自分がしんどくないのに、しんどいっていう僕の言葉を信用してくれた人たちがいる。それはほんっとに救いです」

 そうして共に生きる場を、言葉で育んできた。

 タイトルにある「さみしさ」について、「自分が本質的に揺さぶられる心の動きがあって、近い言葉としてあてました」と直美さん。その感情がどんなものか「わからない」と順平さんに言われても動じない。「話し言葉では確かに伝えられないから、どうにかして文章で書いたところがあります」と、本書の冒頭部分に2016年に書いた「さみしさは彼方」というエッセイを置き、巻末に時間が経った今、その感情との距離感を綴った。

 副題「カライモブックスを生きる」は順平さんがつけた。

「お店だけじゃなく生活も引っくるめてカライモブックス。楽しく、だけど嫌なもんは嫌とちゃんと言う僕らの姿勢をこれからも続ける、未来に向けた意志が入っています」

 水俣での転居先は、石牟礼さん夫妻が住んでいた家。その重みを感じながらも「僕らはカライモブックスとして行く」(順平さん)、「私たちは私たちでありながら新しくなっていきたい」(直美さん)と自分たちのあり方を大事にする。水俣に向かう今の気持ちは書き下ろした文章に込めた。

 10年に及んで綴られた二人の随想集。思いを言葉にする力で、言葉の向こう側へと運んでくれるような、新たな地平を感じる一冊だ。

(ライター・桝郷春美)

AERA 2023年4月17日号