AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
作家・石牟礼道子さんの文学に惹かれ、京都から不知火海に思いをはせて2009年にカライモブックスを開いた奥田直美さんと奥田順平さん。カライモとは南九州でのサツマイモの名称。二人が13年から10年間発行している「唐芋通信」などに載せた文章に、書き下ろしを加えて一冊にまとめた『さみしさは彼方 カライモブックスを生きる』が刊行された。言葉へのアプローチがまったく違う二人が、その時々の今の気持ちを言葉にしようとする力に満ちた随想集だ。同書にかける思いを聞いた。
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カライモブックスは、奥田直美さん(43)と奥田順平さん(43)が京都で14年営む古書店だ。石牟礼道子さんの文学に惹かれた二人が、その文学世界の近くにいたいと本屋を開き、店と住まいを兼ねた家に家族で暮らしてきた。この夏、熊本県の水俣市へ移転する。
本書は、お店で10年にわたって発行してきたフリーペーパー「唐芋通信」に執筆した文章を中心に、書き下ろしを加えたエッセイ集。石牟礼文学が好きな思い(直美さん)や、水俣に住めなかった気持ち(順平さん)、家族の日々などをそれぞれの言葉で紡ぐ。
「私たちは24時間ずっと一緒。うまく生活していくのに工夫が必要で、思いや状況の整理をするために文章を書いています」(直美さん)
心のなかにある感情は、すべてが言葉にできるわけではない。それでも直美さんは社会の動きに揺さぶられながら、生活を回していくなかで感じる「モヤモヤや、嫌だという気持ちが一体何なのかが知りたい」と言葉を探る。まるで透明な根を伸ばすように内面に潜っていく文章に、読む人も、もう一層深い所に降りて日々を見つめることができる。
一方、順平さんの文章はストレートに訴えかける。「唐芋通信」で、自身の化学物質過敏症を打ち明け、強い香りを伴う製品による香害の苦しさを伝えると、文章を読んで普段使う洗剤を無香料のものに変えた人がいるという。