昨年5月7日、露・対独戦勝77周年軍事パレードのリハーサルでのイスカンデルミサイル(ロイター/アフロ)
昨年5月7日、露・対独戦勝77周年軍事パレードのリハーサルでのイスカンデルミサイル(ロイター/アフロ)

 国連安保理常任理事国で、世界秩序の保証人として核保有を認められている国の大統領が戦争犯罪の容疑者になったというのは、前代未聞だ。

 実際には、プーチン大統領が身柄を拘束される可能性はほとんどない。

 確かに、ICCに加盟する123の国と地域は、逮捕状の執行を義務づけられている。だが、日本を含むこれらの国と地域の多くは、そもそもプーチン氏の来訪を認めないだろう。プーチン氏にしても、不愉快な騒動を起こしてまで、そうした場所を無理に訪れることは望まないだろう。今後、プーチン氏の国際的な行動がかなり制約されることは間違いない。

 ICC加盟国の中には、かつてソ連の構成国だった中央アジアのタジキスタンや、BRICSの枠組みでロシアと協力関係にある南アフリカやブラジルが含まれる。いずれもプーチン氏がこれまでしばしば訪問してきた国々だ。今後、これらの国々が国際会議を開く機会に、プーチン氏を招くのかどうかも注目される。

■引退の道閉ざされた

 一方で、ICCの逮捕状には深刻な副作用も避けられない。それは、プーチン氏が来年予定されている大統領選に立候補せずに引退するというシナリオが、ほぼ閉ざされたということだ。

 逮捕状には時効がない。プーチン氏が大統領の地位を捨てれば、実際に身柄を拘束されてしまう可能性が飛躍的に高まる。後継者に誰を指名しても、プーチン氏を守ってくれる保証がないことは、プーチン氏自身が一番良くわかっているだろう。

 プーチン氏は今後、死ぬまで権力の座にしがみつこうとするだろう。

 戦況の好転が見通せず、国際的な批判も高まる中、プーチン氏は不毛な侵略をあきらめていない。それどころか内政でも外交でも、ますます無理を重ねようとしているのが現状だ。(朝日新聞論説委員、元モスクワ支局長・駒木明義)

AERA 2023年4月17日号より抜粋

著者プロフィールを見る
駒木明義

駒木明義

2005~08年、13~17年にモスクワ特派員。90年入社。和歌山支局、長野支局、政治部、国際報道部などで勤務。日本では主に外交政策などを取材してきました。 著書「安倍vs.プーチン 日ロ交渉はなぜ行き詰まったのか」(筑摩選書)。共著に「プーチンの実像」(朝日文庫)、「検証 日露首脳交渉」(岩波書店)

駒木明義の記事一覧はこちら