経済思想家 斎藤幸平さん:東京大学大学院准教授。著書に『ゼロからの「資本論」』『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』など/ジャーナリスト 国谷裕子さん:NHK「クローズアップ現代」のキャスターを2016年まで23年間務める。著書に『キャスターという仕事』など(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)
経済思想家 斎藤幸平さん:東京大学大学院准教授。著書に『ゼロからの「資本論」』『ぼくはウーバーで捻挫し、山でシカと闘い、水俣で泣いた』など/ジャーナリスト 国谷裕子さん:NHK「クローズアップ現代」のキャスターを2016年まで23年間務める。著書に『キャスターという仕事』など(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)

 そして、今年の国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第28回締約国会議(COP28)の議長国はアラブ首長国連邦になりました。脱炭素化の国際会議さえも、産油国に乗っ取られている現状は、これまでの脱炭素化のやり方が根本的に間違っていることを示唆しているように思えるのです。

 また、国谷さんがおっしゃった急速な再エネ化の動きも、私はそれがまた新たな格差や分断を生むことを危惧しています。ドイツはロシア以外の国から天然ガスを買える。でもその結果、天然ガスの価格はどんどん上がり、グローバルサウス(主に南半球にある南アメリカやアフリカなどの新興国や発展途上国)の国々は買えなくなってしまいます。そうなるとロシアなどからの石炭に回帰せざるを得なくなる。でも、その石炭の価格さえも上がり始めているので、結局、ドイツは自分たちの生活を維持したまま、自分たちの掲げた脱炭素目標を達成するために他の貧しい国の人たちを踏みにじっていくことになる。これまた、グローバルサウスの人たちからすれば「何なんだ?」という気持ちをますます高めることになるでしょう。

■ロシアと敵対できない、実はグローバルノース側

 生きていくためには、ロシアと敵対することはできない。そんな構造を作っているのは、実はグローバルノース(主に北半球にある先進国)の側なのではないか。そこで連帯もできないようでは、世界が「気候変動対策で脱炭素を」と言うことも難しいのではないか。むしろこのままだと、先進国が脱炭素に向けた自分たちの目標を達成するために、土地を収奪したり資源を独占したりする傾向が強まり、資金力で対抗できないグローバルサウスの国々から「彼らの言う『脱炭素』なんて地球のためと言いつつ、資源を奪っていくだけの新しい形の帝国主義戦略じゃないか」というふうにますます信頼を失っていく。

 だからこそ私は『人新世の「資本論」』で「脱成長」という言葉をあえて使いました。先進国の側が成長ありきの方向性や過剰な大量生産・大量消費を抑制していくライフスタイルを示していく形でしか、グローバルサウスからの信頼を取り戻す説得力を持ちえないのではないかと思うんです。

国谷:そこは私が取材しているSDGs(持続可能な開発目標)の実現においても一番難しいところです。デカップリング(一定の経済成長や便利さを維持しつつも、エネルギー消費を減らしていく、すなわち両者を切り離す)を可能にしていくためにはどうすればいいのか、議論が続いています。

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