働き方が多様になってきたが、妊娠出産を控える若い世代やまだ小さい子どもがいる女性にとって転職や再就職のハードルはまだ高い(撮影/写真映像部・高野楓菜)
働き方が多様になってきたが、妊娠出産を控える若い世代やまだ小さい子どもがいる女性にとって転職や再就職のハードルはまだ高い(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 結婚・出産後も働き続ける女性は増えたが、正社員として転職や再就職するハードルは子どもの有無にかかわらずまだまだ高い。なぜなのか。AERA 2023年3月20日号の記事を紹介する。

【グラフ】結婚・出産後の就活は「難しい」と答えたのは何割?

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「これから子どもを持ちたいって考えたりしてる?」

 大阪府在住の会社員、田村里美さん(36)は、転職活動中に“先輩社員”から突然、こう聞かれた。時は、最終面接前の「カジュアル面談」と称された場。人事担当者からは「採用のための選考や合否判定に関係のない面談」だと説明され、「職場の雰囲気を知るためにも、面談を有効に使ってほしい」ということだった。田村さんは二つ返事で承諾し、面談に臨んだ。

 和やかに話が進み、そろそろ終盤というところで、突如切り出された冒頭の質問。田村さんは当時、夫と結婚して2年目。初対面にしては随分と突っ込んだことを聞くなと戸惑いながらも、その場で「子どもを持ちたいと考えている」と答えると、採用の合否に響く気がした。

「あまり考えてないです」

 とっさに、こう答えた。その瞬間、心なしか先輩の顔に、安堵(あんど)の表情が浮かんだ気がした。

 その後、内定を獲得。入社してわかったのが、年上の女性社員には、子どもがいない人が多いこと。特に管理職の女性は、結婚はしていても、子どもがいない人がほとんど。ここでキャリアを積むというのは、“そういうこと”なのだろうと感じた。

■転職が先か出産が先か

 入社して2年が経過し、子どもを持ちたいと真剣に考えるようになった。仕事はやりがいもあって楽しいが、残業が当たり前で、帰宅するのは夜10時を過ぎることが多い。頭をよぎるのが、転職だ。

 そこで思わぬハードルとなっているのが、育児休業。仮に転職直後に妊娠した場合、産前産後休業は、勤務年数にかかわらず取得できるが、育休は継続雇用期間が1年未満の場合には取れない会社もある。同時に、新たな職場の人間関係やキャリアを考えると、産休や育休を取るには、転職して最低2年は必要だと考える自分もいる。

「つまり転職すると、子どもを持つのを先延ばしにせざるを得ない。産休や育休取得を考えると、環境になじんでいる今の会社にいた方が良いのかもしれません。動くべきかどうか悩んでいるうちに、さらに時間が経過してしまう」(田村さん)

 出産後も働き続ける女性が増加している。男女共同参画白書によれば、2000年代前半までは、女性正社員の約半数が第1子出産を機に無職に転じていたのに対し、10年以降はキャリアを維持する人が増加している。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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