2月24日、参議院議員会館(東京・永田町)で環境省の職員に、実証事業の中止などを求める文書を手渡す、市民団体の女性
2月24日、参議院議員会館(東京・永田町)で環境省の職員に、実証事業の中止などを求める文書を手渡す、市民団体の女性

「こんな場所に持ってくるなんてとんでもない」

 新宿御苑には、周辺の保育園の園児たちが遊びに来るし、他の区からも小学生がよく訪れる。災害時の避難場所でもある。そんな場所に除染土をもってくるのは、パフォーマンスとしか思えない。平田さんは環境省が昨年12月下旬に開催した住民説明会に参加したが、「不信感しか湧かなかった」と話す。

「環境省の職員は『安心安全』と繰り返すだけ。しかも、いつから始めていつ終わるんですかと聞いても『わかりません』というだけ。納得しろというほうが無理です」

 国際環境NGO「FoEジャパン」事務局長の満田夏花(みつたかんな)さんは、最大の問題点は、放射性物質が含まれる土壌を各地の公共事業で再利用できるようにすれば、環境中に放射性物質を拡散することにつながると指摘する。

「8千ベクレルの除染土が、事故前の安全に再利用できるクリアランスレベルの100ベクレルまで減衰するのに約190年以上かかります。一方、除染土を道路の盛り土に使用すると、盛り土の耐用年数は70年です。残り120年をどう管理するのか、責任体制含め曖昧(あいまい)なままです」

 さらに、除染土を使った道路が災害で崩壊する可能性があり、そうなれば放射性物質が環境中に拡散されてしまうことになる。放射性物質の地下水への影響も考えられるという。

 そして仮に実証事業をするとしても、セシウムしか測定しないのは問題だと疑問を呈する。

「放射性物質にはセシウム以外にストロンチウム90も含まれています。ストロンチウムはカルシウムと同じような動きをするので、体に入ると骨に蓄積します。セシウムと同様、内部被曝のリスクがあります」

 ストロンチウム90は考慮しない理由を環境省の担当者は、こう説明した。

「文部科学省が事故直後の12年に中間貯蔵施設の除染土に対し実施した調査研究の結果、セシウム134と137以外の放射性物質による公衆の追加被曝線量は十分に低い値となり、安全確保の観点から有意な影響はないものと考えられます」

■処分と再生利用は別物

 これに対し、満田さんはこう批判する。

「文科省の調査によれば、12年1月時点で、福島第一原発の周辺で最高で1平方メートル当たり5700ベクレルのストロンチウム90が検出されています。環境省がやろうとしているのは、科学的な実証事業ではなく、安全だと理解してもらうためのデモンストレーションです。一旦、除染土を30年後に県外で最終処分するという決定を見直し、どうすればいいか、全国的な議論を積み重ねるべきです」

 龍谷大学教授の大島堅一さん(環境経済学)は、そもそも除染土の再生利用は法的根拠がないと批判する。

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