実証事業の候補地の一つとする新宿御苑内の花壇と、その場所を示す環境省の職員。「新宿に持ってくる意味があるのか」と住民は訴える
実証事業の候補地の一つとする新宿御苑内の花壇と、その場所を示す環境省の職員。「新宿に持ってくる意味があるのか」と住民は訴える

 原発事故後に福島県内の除染で出た「除染土」。その再生利用に向けた「実証事業」が首都圏で計画され、各地で反対の声が上がっている。AERA 2023年3月13日号から。

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 原発事故の“負の遺産”は、多くの人の人生を変え、いまだ多くの人を苦しめる。そんな中、原発事故後に福島県内の除染で出た「除染土」の再生利用に向けた「実証事業」が首都圏で計画されていることが明らかになった。

 昨年12月、環境省は、除染土の再利用について新宿御苑(東京都)、環境調査研修所(埼玉県所沢市)、国立環境研究所(茨城県つくば市)と、いずれも同省が管理する3施設で行うことを打ち出した。

 福島第一原発事故で発生した除染土は、原発周辺に設けた中間貯蔵施設に運び込んでいる。2015年に始まり、22年3月末でおおむね完了した。その量は東京ドーム11杯分の約1400万立方メートルに及ぶ。しかし、中間貯蔵施設は一時的な保管場所。環境省は14年、搬入から30年後となる45年3月までに県外で最終処分すると法律で定めた。

 だが、膨大な「土」をどこでどのように処分すればいいかわからない。環境省は16年、除染土を道路や鉄道の盛り土など公共事業や農地造成などでの「資源」として、放射性物質汚染対処特措法(特措法)に基づく「1キロあたり8千ベクレル以下」の土を再生利用する方針を示した。再生利用できる量は総保管量の約4分の3に及ぶ。今回の実証事業は、そのパイロットケースだ。

 新宿御苑では、一般の入場が規制されたエリアの花壇を1メートル近く掘り、底に集水シートを敷いて6立方メートルの除染土を入れ、別の土をかぶせる。シートに集まった水は隣の貯水槽に集め、安全性を確認した後、下水道へ放流する。実証事業が終われば、土は再び福島に持ち帰る。開始時期は未定だ。

■園児や小学生が来る

 なぜ、新宿御苑や所沢なのか。環境省環境再生・資源循環局の担当者は、AERAの取材に理由をこう説明する。

「環境省が管理する場所で、かつ一定の工事スペースがとれるところを選定しています」

 新宿御苑は、持ち込む予定の花壇はバックヤードなので来場者が立ち入ることはないため安全だという。

 だが、新宿御苑に面した新宿1丁目に50年以上暮らす平田宏子(こうこ)さん(79)は憤る。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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