「特措法では、除去土壌(除染土)の扱い方に『処分』が明記されているのですが、『再生利用』は記されていません。処分と再生利用は別物で、一般的な廃棄物の扱い方などを規定した廃棄物処理法では、『処分』と『再生利用』とが区別して記載されています。最終処分場に入れる除染土壌を減らすために再生利用すると言い出したのがきっかけですが、詭弁を弄しているとしか思えない」

 大島さんは、「放射性物質は管理して処分が原則」と指摘する。それが道路の盛り土などで再生利用されると「資源」として扱われるため、放射性物質としての管理はしなくてよくなる。放射線量は測定されず、放射性物質の追跡もできなくなるという。

 日本原子力研究開発機構(JAEA)が17年に出したレポートでは、当時の試算で2200万立方メートルの除染土は1.3キロ四方のスペースがあれば埋めることができるとある。除染土は、当初の見込みから1400万立方メートルまで減ったので、1キロ四方のスペースで足りる可能性があると、大島さんは見る。

「国か東電の敷地にスペースを設ければ、そこで一括して厳重に保管することもできる。放射能が安全なレベルに減衰するまで100年以上かかりますが、それが最も適切な方法。今からでも法律を制定して取り組むべきです」

■信頼構築できていない

 そもそも、今回の実証事業は多くの住民にとって、まさに“青天の霹靂(へきれき)”だった。計画を新聞などの報道で初めて知ったという人は少なくない。

 原発事故後、福島で放射線量の測定を続ける東京大学大学院助教の小豆川(しょうずがわ)勝見さん(環境分析化学)は、今回の一番の問題は信頼関係の構築ができていなかったことだと指摘する。

「原子力災害で最も大切なのは、信頼関係を築くこと。それは、放射性物質が危険か安全かという議論以前の問題です」

 除染土に関しては、45年までに福島県外で最終処分しなければいけないことがわかっていた。であれば、国は計画を住民に説明し周知していかなければならなかった。それを怠ったために今回のような問題が起きた。新宿や所沢に除染土を持ってくると聞いた周辺の住民が驚いた時点で、この事業は失敗だと語る。

「それぐらい放射性物質は面倒なものです。第三者の人間がいつでも誰でもどんな時でもクロスチェックできる状態にする。それくらいしなければ、みんなが『安心』と言える環境にはなりません」

 原発事故から12年たって見えてきた現実と浮かび上がる課題は、事故の根深さを物語る。社会は何をするべきか、いま問いかけられている。(編集部・野村昌二)

AERA 2023年3月13日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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