世界と自分信用しすぎで起きた副作用(イラスト:サヲリブラウン)
世界と自分信用しすぎで起きた副作用(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

 *  *  *

 今年50歳になるというのに、出かける前はいつもあたふたしてしまいます。到着時間が決められた外出においては、バタバタせず家を出られたことなど人生で3回くらいしかないかもしれない。なぜだ。

 私はずっと、生活がだらしなく準備が悪いからだと思っていました。財布やスマートフォンが見つからないのは置き場所を守っていないからで、着ようとした服にシミが見つかるのは、私の管理が粗雑だからといった具合に。

 加えて、出先でトラブルに見舞われることも少なくありません。予想外の渋滞、乗り換えの失敗、地図を片手にグルグル迷ったりもある。

 理由はなんにせよ、バタバタの揚げ句に遅刻をすることも少なくない。人を待たせるのはまったくもってよろしくない。なんとか改善したいと準備開始を30分早めてもみるのですが、なぜか準備が間に合わない。意味が分からない。

 長年の友人とその話をしていたら、それはあなたが世界を信用しすぎているからだと不意を突かれました。

 いわく、思い通りになることなどほとんどないのだから、予定通りに物事が進むこともない。それを理解していないからだと。

 観念的な話ではありますが、具体的なハウツーよりずっと腑に落ちました。なるほど、私にはたしかに世界と自分を信用しすぎているきらいがあります。挑戦をしない代わりに、失敗を恐れることもほとんどない。なんとかなると、たいてい思っています。

 と同時に、1度か2度の成功例を標準的な結実とみなしがちでもあります。読みが甘いってそういうことだ。世界と自分を過度に信用するからでしょう。そのおかげで良い結果を導けたことも多々あります。しかし、こんな副作用があったとはね。

著者プロフィールを見る
ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

ジェーン・スーの記事一覧はこちら
次のページ