自分にとって「ちょうどいい」家族の形とは(イラスト:サヲリブラウン)
自分にとって「ちょうどいい」家族の形とは(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 兵庫県明石市で講演会を行ってきました。

「講演です」と胸を張れるほどためになる話はできませんが、地方自治体から、男女共同参画やジェンダー平等について話をしてほしいとリクエストがあったときは、可能な限り出向くようにしています。それが、私が持つ特権の正しい使い方だと思うので。

 今回は、明石市ジェンダー平等推進室にお招きいただきました。講演タイトルは「いろいろな家族のかたち ~いまの自分の『ちょうどいい』を見つけよう~」。婚姻関係に基づく異性愛者の家族だけでなく、事実婚の家族や同性愛者同士の家族など、さまざまな愛の形を認めていこうという試みです。

 私は独身の異性愛者です。家族形態の研究者でもありません。それでも、旧来型の家父長制に基づく家族という呪縛に囚われ、それを営めない自分を責めたことはあります。

 今回は、家族の形を考えるまえに、まずは自分自身の棚卸しをしてみようと提案しました。「ちょうどいい」を探すのです。自身が定義する「私」は、どこまで自由なのか。お仕着せの価値観とものさしで自分を測り、ダメ出しをしていないか。欲望や可能性を、自分の手でつぶしていないか。ひとつずつ丁寧に考えれば、自分にとって快適な家族の形が見いだせると考えました。

イラスト:サヲリブラウン
イラスト:サヲリブラウン

 ありがたいことに、講演には300人弱が参加してくださいました。多くがポッドキャスト番組「OVER THE SUN」のリスナー。最前列には私の名前を書いたうちわを持った女性陣まで! 80分超のひとり喋りを、みなさん熱心に聞いてくださいました。質疑応答では多くの手が挙がり、家族が抱える問題や、自身のアイデンティティーから引き起こされる暮らしづらさについても貴重なお話が聞けました。

 質疑応答こそが、講演会の醍醐味です。話を聞いて、感じるところがあった人たちが、ボールを打ち返すように言葉を投げかけてくれる。うまく言語化できずとも、思いは伝わります。対話こそが、問題解決の糸口であり、自分を理解する手立てであることは講演会でも変わりありません。

 時代にそぐわぬ欠陥システムに対応できない自分を責めるのはもったいない。女性はその罠にはまりやすいので、私にその呪縛を解くお手伝いができるなら、これからもどこへでも馳せ参じようと思います。帰りの電車から見た明石海峡大橋、美しかったな。

○じぇーん・すー◆1973年、東京生まれ。日本人。作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニスト。著書多数。『揉まれて、ゆるんで、癒されて 今夜もカネで解決だ』(朝日文庫)が発売中

AERA 2022年12月26日号

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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