ミサイルが着弾したポーランドのプシェボドフ村。ポーランドメディアは、穀物を積んだ台車が転がる様子などを報じた(photo アフロ)
ミサイルが着弾したポーランドのプシェボドフ村。ポーランドメディアは、穀物を積んだ台車が転がる様子などを報じた(photo アフロ)

 旧ソ連地域研究で知られる廣瀬陽子・慶應義塾大学教授は、

「非常に後味の悪い出来事だと思います。ウクライナは、罪のない人が2人亡くなったという事実を重く受け止め、ここは大人の対応をすべきでしょう。ポーランドに謝罪するとともに、間違った批判をしたことについて、ロシアに対してもできるだけ早く謝った方がいい」

 と話す。

 SNSでは「ウクライナの指導者たちはウソをつき、ロシアのミサイルだと非難している」「ウクライナこそが第3次世界大戦を始めようとしている」とゼレンスキー大統領を批判する声が上がる。それは「ロシアが悪、ウクライナが善」一色だった世界の論調に変化が起き始めていることとも相まって、強さを増している。

 その発端は、米国だ。

「当初、米国民は圧倒的にウクライナ支援を支持し、議会も超党派でウクライナ支援を決定してきました。けれど春ごろから、物価高が深刻化したこともあり、膨大な支援への疑問が国民の中に生まれてきました。いわゆる『支援疲れ』です。こうした国民の声に呼応し、まずは国内の問題に注力すべきだと主張し始めている勢力は、与党内にもいます」(三牧准教授)

■見逃せない支援疲れ

 バイデン大統領はウクライナ支援の継続を打ち出してはいるが、11月8日に終わったばかりの米中間選挙では、下院で野党の共和党が過半数を獲得。盤石とはいえない政権において「支援疲れ」は見逃せない動きだという。

 戦争が長引いた場合、議会や国民がついてくるのか。不安要素を抱えているのだ。そんな状況も踏まえ、前出の手嶋さんは、

「ロシア、米国ともに戦局の悪化を望んでいないことが明らかになった今こそ、ウクライナを説得し、停戦交渉のテーブルにつかせることができるかもしれない」

 と話す。ウクライナ領土のあり方について最終決着をつけようとすれば、

「戦いは果てしなく続き、追いつめられたプーチン大統領が小型核兵器に手をかける時がくる」(手嶋さん)

 まず何よりも停戦が求められているのだ。廣瀬教授も、

「ロシアにとっては、事実が公平にジャッジされた今回の経験は大きい。国際的な取り決めができる基盤があることがわかったのではないか。ウクライナは『ロシアだけが悪い』という国際世論に変化が起きていることを受け止め、いま一度冷静になって交渉に対する姿勢を見直すきっかけとしてほしい」

 と話す。ポーランドへの着弾は、戦局が収束に向かう契機となる可能性が示された。この機を逃してはいけない。(編集部・古田真梨子)

AERA 2022年11月28日号

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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