photo (c)2019 - SCHUCH Productions - Joparige Films - 127 Wall
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 フランス・ブルゴーニュ地方。ロマネ=コンティをはじめ世界最高峰のワインを生み出す土地でワイン造りをする人々の1年を、静かに見つめたドキュメンタリー。謙虚に自然と向き合い、その精神を次世代へ継承する生産者たちの姿と言葉が「ワインは生きている」ことを教えてくれる──。連載「シネマ×SDGs」の27回目は、「ソウル・オブ・ワイン」のマリー=アンジュ・ゴルバネフスキー監督に話を聞いた。

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 私はワインの専門家ではありません。ブルゴーニュに興味を持ったのは絵画からでした。ワイン好きの友人の話を聞き「ワインも芸術と同じように奥深いのでは?」と興味を抱いたのです。友人の紹介でロマネ=コンティの生産者で現監査役のオベール・ド・ヴィレーヌに会うことができ、彼は私が純粋にワインの世界を描いてくれると信頼してくれたようです。

photo (c)2019 - SCHUCH Productions - Joparige Films - 127 Wall
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 もちろん彼らのワインに1本200万円するものがあることもわかっていました。でも私はお金やビジネスの話をしたくはありませんでした。あくまでもワインを通して出合う自然やワインの本質を描きたかったのです。協力してくれた人々にワインという世界につきまとうイメージ──傲慢さやうぬぼれなどは一切ありませんでした。彼らは本当にやさしくワインや土地について教えてくれました。

photo (c)2019 - SCHUCH Productions - Joparige Films - 127 Wall
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 最初の1年を準備に使い、2年をかけてワイン造りを追いました。ブルゴーニュの生産者たちは農薬や除草剤を使わず、自然のままのビオディナミ農法を行っています。馬で畑をすき、丁寧に収穫をする。その様子を見ながら中世の絵画の世界を目の前で見ているような、えも言われぬ感覚をおぼえました。

photo (c)2019 - SCHUCH Productions - Joparige Films - 127 Wall
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 この映画を撮ったことで、私の自然への見方が変わりました。畑で季節ごとに変わる風景を眺めていると、土地が生きていることがわかるのです。生産者たちが最も重要視しているのは、自然に従うことです。土壌の養分を吸い上げたブドウは樽で息をしながら時を待ち、やがて瓶に詰められます。ワインも生まれて育って、最後は死ぬ。ワインにも人と同じように人生があり「ワインは生きている」のです。目には見えない“ワインの魂”に少しでも触れるような体験をしていただければ、この映画は成功しているのだと思います。(取材/文・中村千晶)

マリー=アンジュ・ゴルバネフスキー(監督・脚本)Marie-Ange Gorbanevsky/パリ・ソルボンヌ大学で美術史を学んだあと映画監督に。ほかに「レースを編む女性たち」(2008年、日本未公開)などがある。全国順次公開中 (c)Michel Joly
マリー=アンジュ・ゴルバネフスキー(監督・脚本)Marie-Ange Gorbanevsky/パリ・ソルボンヌ大学で美術史を学んだあと映画監督に。ほかに「レースを編む女性たち」(2008年、日本未公開)などがある。全国順次公開中 (c)Michel Joly



AERA 2022年11月14日号