■大手家電がスルーする 一人暮らしに愛を注ぐ

 翌日、大阪に戻る新幹線の中で、山の思いは、「早く試したい、試したい」。家に帰る途中、コンビニに寄る。ペヤングの白いパッケージが輝いて見えて、買った。妻がつくってくれた夕食を食べた。はやる気持ちは止まらない。台所に立った。

 フライパンに水を注ぎ、沸騰させてからペヤングの麺を入れる。麺がほぐれ、水が蒸発、麺をフライパンで焼き、付属のソースをかける。食べた。めっちゃ、うまい。そや、ペヤング専用のひとり用ホットプレートをつくるんや!

 山は、なぜU.F.O.ではなくてペヤングにするのか、考えた。ペヤングへの愛を語る人たち、その心に届くはずだ。部長としての計算も働いた。U.F.O.の日清食品は東証プライム上場の大企業、OKには時間がかかるだろう。まるか食品はオーナー企業だ、対応は早いやろ。

 翌日、山はコンビニでペヤングを買って、自信満々で出社した。会社の隅にあった、ひとり用のホットプレートで焼き、仲間たちにふるまう。

「山さん、あかんです」

 水分が残ってべちゃべちゃだった。家でうまかったのはフライパンだったからか。だったらフライパンで焼いたら……。あかん、ふつうやんか。

 山にはポリシーがある。独身、単身赴任、人生いろいろあって一人で頑張っている人。彼ら彼女らを大手家電はスルーしてしまうだろう。でも、そこにこそ、新興の中小家電の活路がある。ずぼらな一人暮らしの人に愛を注げなければ、自分たちが家電をつくる意味はない、と思うのだ。

 試作しては食べる日々、が始まった。ペヤングは、いくら食べても飽きない。けれど、高カロリー、太りたくない。ふだんの食事を節制し、ジムで汗を流す。そして、つくっては食べる、に戻る。試食は夜中までつづく。おなかパンパン、ワイシャツのボタンがはじけそう。

 一般のホットプレートは表面温度を一気に上げ、その後、温度が下がっていく。でも、それではペヤングはおいしく焼けない。だから、温度を少し高くできて、キープできるようにした。プレートに麺がこびりつかないように、フッ素加工は二重に。使う水の量も、微妙に調整していった。

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