11年半前にひとりで始めた防災情報配信の取り組みは、今や「社会インフラ」へと育った(撮影/倉田貴志)
11年半前にひとりで始めた防災情報配信の取り組みは、今や「社会インフラ」へと育った(撮影/倉田貴志)

 ゲヒルン代表取締役、石森大貴。「特務機関NERV」の名で、アプリやツイッターを通して防災気象情報を配信する。その早さは国内最速レベルだ。石森大貴が個人で始めた取り組みは、「公式」からのお墨付きも得て、いまやアプリのダウンロード数は307万回。あの日、大切な人に「逃げて」の声が届かなかった。だから0.01秒でも早く、わかりやすく情報を伝えることにこだわる。

【写真】秋葉原の歩行者天国を歩く石森さん

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 9月1日、あるスマートフォン用アプリのアップデートにSNSがざわついた。耳目を集めたのは、これまで黒に近いダークトーンだった画面を、明るいライトトーンに切り替えられる機能。だがその陰には、単なるテーマカラーの変更に留まらないアクセシビリティーへの挑戦が隠されていた。

 これまででもっとも重要なアップデート──。

 ITセキュリティー企業・ゲヒルンの代表で、このアプリ「特務機関NERV(ネルフ)防災」の開発者である石森大貴(いしもりだいき)(32)はそう言い切る。

 特務機関NERV防災は、地震や津波、噴火、気象特別警報の速報や、洪水・土砂災害といった防災気象情報を国内最速レベルで配信するスマートフォンアプリだ。スマホ上に通知が表示されるまでの時間は端末の設定や通信環境にも影響されるため一概に言えないが、早いケースでは気象庁発表から1秒とかからない。アプリリリースは2019年9月、同名のツイッターアカウントでは11年から災害情報の発信を続けてきた。名称の由来はアニメ「エヴァンゲリオン」シリーズに登場する組織で、版権元の公認でもある。もともとは石森が個人で始めた取り組みだ。

「情報だけで命を救うことはできません。ただ、情報があれば逃げるための『判断』をすることができる。その判断の時間を稼ぎ出すために、0.01秒でも早く伝えることにこだわっています」

 そして今回の更新で、アプリではテーマカラーの変更のほか、色覚特性に合わせた3タイプの配色設定、さらに3種類のコントラスト比を選択できるようになった。つまり、同じアプリに2×3×3=18パターンの配色が存在することになる。文字サイズ、太さの変更機能や画面自動読み上げに特化したレイアウトも実装した。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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