性犯罪の被害者への非難は、苦しんでいる被害者に追い打ちをかける。ネットでの中傷のみならず、被害者非難の言葉は日常にもはびこっている。AERA 2022年9月19日号の記事を紹介する。

性暴力の被害者を非難する二次加害の背景にあるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)。自分の見方が偏っていると自覚することが必要だ(撮影/写真映像部・松永卓也)
性暴力の被害者を非難する二次加害の背景にあるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)。自分の見方が偏っていると自覚することが必要だ(撮影/写真映像部・松永卓也)

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 8月下旬、俳優の香川照之氏による性加害が公になって以降、SNS等では被害者への非難のコメントも目立つ。

「3年も前のことか」

「クラブで働いているのだから当たり前」

 こうした内容を投稿する。「いいね」を押す。何げない「被害者非難」の行動は、苦しんでいる被害者をさらに追い詰める。「二次加害」と呼ばれ、セカンドレイプに等しいとも言われる。

 性被害者の心理に詳しい目白大学心理学部の齋藤梓准教授はこう話す。

「今回の件に限らず、性的な被害を受けた方が、何かにつけて非難されることは多いです。傷ついたにもかかわらず非難されて、社会や他人を信用できなくなる人もいます。また、自分を責める気持ちも生まれてしまう場合もあります。そうした場合に精神的後遺症が強くなることは、想像に難くありません」

 実際に、暴力犯罪のなかで最も高確率で心的外傷後ストレス障害(PTSD)をもたらすのが、性犯罪の被害だと言われている。もちろん、性被害にあってもどこへも相談できずにサポートを受けられないまま、心の傷を深めている場合が多いので、被害者非難だけがPTSDの要因とは言い切れない。

「ただ、周囲の人に相談したのに、被害者非難のような対応をされることは、傷をさらに広げる行為です。PTSDになるリスクを高めると言われています」(齋藤准教授)

■日常にもはびこる非難

 今回の香川氏にまつわるニュースに寄せられた被害者非難で追い詰められるのは当事者の女性だけではない。性被害者を責めるようなSNSの投稿、記事に付いたコメントを目にして、過去に別の被害にあった人が傷つくこともある。齋藤准教授は言う。

「被害者が責められているのを目の当たりにして、『社会はそれを暴力と思ってくれないんだ』という感覚になってしまいます」

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