
マリカの人生について深くは聞きませんでした。彼女が言う「女性の権利などいらないよ。私は自立しているんだ」「あんたら、この世で私に居場所をくれなかったくせに!」といった表現のなかに、彼女のつらい経験が隠されていると思います。彼女は北から一人でやってきて、この地で居場所を作ったのです。
マリカは知らず知らずフェミニストな性質を持っていると思います。スーフィズム(イスラム教の神秘主義哲学)の心も感じました。自我を忘却し、内面の平静さや平和を求めるものです。マリカはこの場所で人々と関わりながら、その境地に向かっていこうとしているのかもしれません。
今年1月にマリカに会いに行くとカフェに電気が通っていました。隣にできたガソリンスタンドから引けるようになったんです。夕方、彼女はスタンドにドラマを観に行きました。もう一人じゃない、と安心しているようでもあり、新しい変化を楽しんでいるようです。(取材/文・中村千晶)
※AERA 2022年9月12日号

