日本銀行の黒田東彦総裁
日本銀行の黒田東彦総裁

 外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長も「金利要件でさらに10円単位で円安が進行することは考えづらい。140円を少し超えたあたりで止まる」とみる。

 さらに個人が保有する現預金の行方に注目する。

「円だけで資産を持つことの危機感が強まって海外投資に目が向けば、一気に円が流出する可能性もある。日本の家計が持つ現預金は約1千兆円。その1割でも21年度の貿易赤字の20倍です。それだけの円が流出すれば、1ドル150円もあり得ない話ではないでしょう」

 すぐに円安を止める方法はほぼないのが現状だ。

 政府・日銀は円買い実施をにおわす「口先介入」を強めるが、効果は出ていない。

 神田さんは言う。

「金融政策で円安を食い止めるのは無理がある。むしろ1日2万人に制限している入国者数を引き上げてインバウンドを取り込むなど、円安だからこその施策に打って出るべきです」

 みずほリサーチ&テクノロジーズの上席主任エコノミスト・酒井才介さんは私たちの生活も「円安シフト」が必要と説く。

「輸入が中心の小麦は値上げ幅が大きく、今後も上昇が見込まれます。主食を米に変えるなど日本の伝統的な食生活に立ち返ってみては。やっていることは家計の節約ですが、中長期的には日本全体の農業支援にもつながります。今回の円安は資源の輸入依存度を引き下げていかなければならないという教訓を与えてくれていると思います」

(編集部・川口穣、古田真梨子)

AERA 2022年6月27日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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