亀岡八幡宮の境内で開催した「逗子・葉山 海街珈琲祭2019」。地元のコーヒー店が多数出店し、音楽ライブも行われた(写真:各社提供)
亀岡八幡宮の境内で開催した「逗子・葉山 海街珈琲祭2019」。地元のコーヒー店が多数出店し、音楽ライブも行われた(写真:各社提供)

 クリエイティブディレクターでホームシックデザイン代表の清水真介さんが言う。「注目されている移住や2拠点生活もまだハードルが高い。その前の段階の関係人口を増やすのは時間がかかります。個人の熱量に合わせたいろんなアプローチが必要ではないかと考えました」

 市が運営するメディアには見えない、と言っては失礼だが、堅苦しさはなく、今っぽさが前面に出ている。「よくある市役所としての告知も入れたいと考えてしまいがちですが、この世界観を楽しんでくれている関係人口の皆さんとの結びつきを優先して、(告知を)行う場合には伝え方の工夫をしています」(都市戦略室長の吉田央さん)

■“場”もメディアになる

 印刷物やウェブだけがメディアではない。「場」のメディアとも言えるのが、神奈川県逗子市の「アンドサタデー」だ。

 アンドサタデーは編集会社を営む庄司賢吾さん・真帆さん夫婦が土曜日だけ開く喫茶店。街の紹介雑誌や観光案内などの制作を手がけるほか、移住の相談窓口業務も請け負う。

「何か始められそうな、余白がある感じ」という街の雰囲気が気に入って、2人が逗子に引っ越したのは5年前。以来、「編集と場づくり」を念頭に活動してきた。「好きな街なので、街のことを誠実に伝えたい」と2人が口をそろえる。

 19年に手がけた「逗子・葉山 海街珈琲(コーヒー)祭」では、地元の神社に市内外から2500人が集まった。カウンターだけの小さな店には、地元の顔なじみから、内見帰りの移住希望者まで次々と人が訪れる。常連さんが東京から来たカップルに「あの店行った?」と教えてあげるなど、いい意味での「おせっかい」が働く。「場があるからこそ、顔が見える関係性ができて、次につながってきたように思います」(真帆さん)

 三者三様の“メディア”のあり方。共通するのは「自分たちの街」への熱い思いと、見事な“編集”のパワーだ。(編集部・高橋有紀)

AERA 2022年6月6日号