「情報が相互に行き交う中で、戻ってきた情報が出ていった時より熱量を増しているような
「情報が相互に行き交う中で、戻ってきた情報が出ていった時より熱量を増しているような"循環"を作りたい」が「めぐる、」の由来(写真:各社提供)

 何げない日常の風景、語り継ぎたい文化──。地域に密着しているからこそわかる街のよさがある。そんなこだわりを、編集の力で伝えたい。ローカルメディアがいま、注目を集めています。AERA 2022年6月6日号の記事を紹介する。

【写真】逗子市観光協会が発行する「小坪漁港の本」

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 マスメディアの影響力の低下と反比例するように、地域密着の「ローカルメディア」が存在感を増している。

 徳島の情報誌「めぐる、」の表紙には、美味しそうな郷土料理やうどんの写真がドーン! 見るだけで食欲がそそられる。老舗グルメ誌のような貫禄さえ感じられるが、2020年秋に創刊したばかり。地域誌の業界団体、日本地域情報振興協会が開く「日本地域情報コンテンツ大賞」を21年に受賞するなど、全国でも注目の媒体だ。

 発行元は40年の歴史を持つ地元出版社の「あわわ」。県内のレジャーやグルメ情報を扱うタウン誌も発行していたが、広告が減り、従来のキラーコンテンツも通用しなくなっていた。

 行き詰まりを感じていた時、小山亜紀さん(現めぐる、事業部長)と徳原香さん(同編集長)が「もっと徳島を好きになるために」をテーマに、一般的なタウン誌とは一線を画す新媒体を立ち上げようと考えた。

「私たちは生産者でもなければ飲食店でもありません。タウン誌の会社としてずっと地域のことを編集してきましたが、もっと目に見える形で人と人、情報と情報を繋(つな)ぎ、新たなものを生み出す“間”の仕事ができたらと思っていました」(小山さん)

 例えば8号の特集は「わたしのつくる徳島の味」。表紙の写真は「くみざかな」という郷土料理で、真っ赤なイセエビにカマスの姿ずし、出世芋(おはぎのサツマイモ版)などのごちそうが大皿に並ぶ。県最南端の海陽町宍喰で結婚式や上棟のお祝い返しに配る「ハレの日料理」だという。だが、すでに廃れた風習で、ネットや図書館で探しても情報が出てこなかった。人づてに探し当てたのは「明治生まれの母が作っていたのを覚えている」という女性。そうして約半世紀ぶりに再現できた。

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