スロバキアの医師、マリア・ゼンバリーさんたちは、ウクライナから来た子どもを癒やそうと、ゴム手袋で風船を作った。その風船で遊ぶ子ども(写真:ゼンバリーさん提供)
スロバキアの医師、マリア・ゼンバリーさんたちは、ウクライナから来た子どもを癒やそうと、ゴム手袋で風船を作った。その風船で遊ぶ子ども(写真:ゼンバリーさん提供)

 ウクライナ侵攻が続く中、避難した人々が辿り着いた周辺国で医療に従事する人々がいる。医師たちが見た避難民の実情とは。AERA 2022年4月11日号から。

【写真】ウクライナの外科医、ソコレンコさんのリュックの中身

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 周辺国には、ウクライナからの避難民のために働く医師たちがいる。ポーランドの小児科医、アガタ・ポニクフィアさん(25)は、ウクライナとの国境から西に300キロ離れたチェシンの総合病院で働いている。

「ウクライナからの患者が増えて、救急外来に来る子どもは以前の3倍くらいに増えました。国境を越えてきた子どもたちは寒さにふるえ、おなかをすかせています。医療ケアが必要な子どももいます。両親が小さいバッグしか持ってこられない家族もいました」

 ポニクフィアさんの病院が行うのは診療だけではない。日常生活の物資も支援している。

「侵攻が始まったころから、病院スタッフは、自宅から提供できるものをかき集め、ウクライナから来る人たちのために備えていました。タオルや服、ミルク、おむつ、化粧品。薬や医療物資も急いで買いだめをしたので、当分は不足することはないと思います」

 迅速に支援物資を集められたことに、ポニクフィアさんたち自身が驚いたという。

「病院以外でも、市民が難民に空き部屋を提供しています。私の恋人の実家も、ウクライナ人に家を貸しています」

 ポニクフィアさんは言う。

「難民というと着の身着のままの人たちをイメージするかもしれませんが、実際は裕福な人もいるし、自分の車で逃げてくる人もいるし、さまざまです」

 だが、ウクライナから来た人たちに共通していることがあるという。

「普通の生活を送りたいと願っていること。だからか、支援を受けることを躊躇する人もいます。慈悲が欲しいのではなく、人間として扱われたいと思っているのだと感じます」

■「難民」と呼ばない

 スロバキアで心臓血管外科医を目指す研修医のマリア・ゼンバリーさん(26)は、週末、ボランティアでウクライナから来る人々を診察している。ゼンバリーさんも、避難民の心のケアの大切さに言及した。

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