半田院長は「重症度に応じて治療する通常医療への移行が重要」としつつも、「医師会では、そういう意見がなかなか出てこない」と言う。

 5類にすれば負担が軽くなるはずの保健所からも懸念の声が上がる。東京都江東区城東保健相談所の山本民子・保健師は、こう指摘する。

「5類になれば、勧告入院がなくなるので、入院医療費も原則3割自己負担です。いまは発熱外来で受けるPCR検査も、有症状者や濃厚接触者は初診料3千円だけですみますが、すべて3割負担になれば、診療を控える感染者が増えるでしょう。一方で検査キットは足りない。コロナをふつうの診療体制にする前にやることがあるのでは」

■楽観するのはまだ早い

 治療薬が少なく、検査キットも足りない。重症化を防ぐワクチン3回目接種も遅れている。5類うんぬんの前に、これらの準備が先決のようだ。

「出口」への準備不足の原因は、もとをただせば「入り口」での失敗にある。

 振り返れば、2020年1月28日、政府は、新型コロナ感染症を「新感染症」に指定して全省庁挙げて「新型インフルエンザ等対策特別措置法」を運用するのではなく、感染症法に基づく2類相当の「指定感染症」に指定した(のちに新型インフルエンザ等感染症)。そこから特措法の改正による緊急事態宣言などの法的位置づけに約1年かかる。もっと早く省庁横断的に検査体制やワクチン、治療薬の調達に取り組んでいれば、結果は違っていたのではないか。

 さまざまな矛盾を背負って「出口」をどう決めるのか。厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部の担当官が言う。

「一般診療でコロナを診るのは本質的なゴールですが、5類引き下げの類型変更がすべてではない。変異するウイルスの特性をふまえ、臨戦態勢をその都度、整える。最終的には厚生科学審議会感染症部会で決める話ですが、いつまでにとは決まっていません。いまは、前段階で、専門家組織のアドバイザリーボードで議論しています」

 今年3月初旬、新型コロナ対策のアドバイザリーボードは、季節性インフルエンザの致死率が0.006~0.09%なのに対し、オミクロン株のそれは0.13%と推定した。コロナを楽観するのはまだ早い。(ノンフィクション作家・山岡淳一郎)

AERA 2022年3月21日号