エテリ・トゥトベリゼコーチはワリエワ選手がフリーを終えた直後、「なぜ諦めた?」などと詰問した
エテリ・トゥトベリゼコーチはワリエワ選手がフリーを終えた直後、「なぜ諦めた?」などと詰問した

 北京冬季五輪で注目を集めた、フィギュアスケート女子の金メダル候補だったカミラ・ワリエワ選手(15)をめぐるドーピング問題。スポーツ仲裁裁判所(CAS)仲裁人で日本アンチ・ドーピング規律パネル委員長も務める早川吉尚・立教大学教授と、2004年アテネ五輪に陸上女子ハンマー投げで出場し、反ドーピング教育を研究する室伏由佳・順天堂大学スポーツ健康科学部准教授はどう見るのか。AERA 2022年3月14日号で語り合った。

【写真】フリー演技後、涙を流すワリエワ選手

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室伏:アスリートがドーピングするまでの意思決定にはいくつか要因があることが国際研究で明らかにされていますが、ワリエワさんは購入や決定のプロセスにはかかわっていない可能性も考えられます。早川先生はワリエワさんがウォッシュアウト(時間が経つことで薬物が体内からなくなること)に失敗したか、陽性反応が出ても要保護者だから免れるという計算があったのか、どちらだと思いますか。

早川:後者は前例がなく、どう判断されるかわからなかったのでないと思います。ウォッシュアウトに失敗したという見方が強い。代謝は体調次第で変化するので計算通りにいかなかったのではないかと。

 ワリエワさんから検出された禁止薬物トリメタジジンは、心肺機能や血流を高める効果があります。いうなれば、軽自動車にF1のエンジンを載せているようなもの。短期間は動くけど、長期的にはボディーが狂い、選手生命ばかりでなく、命が短くなる恐れがある。

ショートプログラム1位のワリエワ選手はフリーで乱れてメダルを逃し、演技後に涙した
ショートプログラム1位のワリエワ選手はフリーで乱れてメダルを逃し、演技後に涙した

 ドーピングがなぜいけないかというと、命の問題に加え詐欺行為によってスポーツの公平性が損なわれるからです。100メートル走なのに、1人だけ95メートルを走るようなものです。

室伏:ドーピングは練習時に使用されることがあります。トレーニングでは高強度の負荷をかける期間があり、その後負荷を減らす期間を設けるなどして疲労が軽減した後は、これまでの水準より体力やパフォーマンスが高まります。ですが高強度の負荷をかける時期は体力が低下して体調を崩しやすく疲労も抜けず、予定していた練習量を落とすこともある。ドーピングで防衛体力の回復を助けられれば計画通りに練習を進められます。

早川:回復の話は興味深い。

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