漁師 野田勇志さん(20)/岩手県大船渡市吉浜で、漁師として両親と一緒にホタテとわかめを養殖する。若者が減る中、「漁業の盛んな町にしていきたいと思います」(写真:本人提供)
漁師 野田勇志さん(20)/岩手県大船渡市吉浜で、漁師として両親と一緒にホタテとわかめを養殖する。若者が減る中、「漁業の盛んな町にしていきたいと思います」(写真:本人提供)

 東日本大震災から11年。被災地では人口流出が続き若者の割合は総じて低い。だが、復興とともに歩み始めた「Z世代」は少なくない。若者たちを動かすのは何か。AERA 2022年3月14日号は、2人のZ世代に聞いた。

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 午前5時半。低いエンジン音を響かせながら漁船「第八喜久丸(きくまる)」が吉浜漁港を出港する。空はまだ薄暗く、冷たい海風が吹きつける。

「でも、仕事をしてれば、体がほかほかしてきます」

 野田勇志(ゆうし)さん(20)は笑顔で話す。

 岩手県大船渡市の吉浜地区。この町で野田さんは父(55)と母(53)と一緒の船で、吉浜湾でホタテとわかめの養殖をする。先祖代々、漁師を生業とする一家の三男で、野田さんで9代目だ。

「豊かな海です。自分も海と一緒に成長した感じです」

 11年前の3月11日、野田さんは小学3年生で授業中だった。高台にあった学校や自宅は無事だったが、避難する車の窓から見た海は大きく渦巻き、恐怖を感じた。

 だが、地震から1カ月近くたち海に行くと、いつもの穏やかな海に戻っていた。

「怖い時もあるけど、やっぱり海からは離れられないな、って」

 大好きな海で働きたくて、地元の高校で水産について学び卒業すると漁師になった。漁師になって2年。仕事も慣れてきた。

 いま野田さんが力を入れているのが、故郷の海を再生する仕事だ。

 津波で破壊された吉浜漁港は元に戻り、穏やかな湾には無数のホタテやわかめの養殖いかだが浮かぶ。だが、その水面下で、ウニが大量発生し海藻を食べつくす「磯焼け」と呼ばれる食害が起きている。海水温の上昇が主な要因と言われるが、数年前から見られるようになった。

 ウニが海藻を食べた結果、同じ海藻をえさとするアワビの水揚げも激減した。ウニそのものもやせ細り、商品価値がなくなる。放置すればウニはさらに増えてしまう。磯焼けは、沿岸漁業に深刻な影響を及ぼし漁師にとって死活問題だ。

■海を次世代に引き継ぐ

 漁に出ない日、野田さんはダイビングスーツに身を包み地元の仲間と一緒に海に潜る。ウニを駆除した後、岩肌に昆布の種を付着させていく。しかし、駆除は湾のまだ1割程度しか終わっていないという。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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