あさだ・じろう/1951年、東京都生まれ。作家。95年『地下鉄(メトロ)に乗って』で第16回吉川英治文学新人賞を受賞。97年『鉄道員(ぽっぽや)』で第117回直木賞。2016年『帰郷』で第43回大佛次郎賞。2011~17年、第16代日本ペンクラブ会長も務める(photo 写真部・高野楓菜)
あさだ・じろう/1951年、東京都生まれ。作家。95年『地下鉄(メトロ)に乗って』で第16回吉川英治文学新人賞を受賞。97年『鉄道員(ぽっぽや)』で第117回直木賞。2016年『帰郷』で第43回大佛次郎賞。2011~17年、第16代日本ペンクラブ会長も務める(photo 写真部・高野楓菜)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

【画像】浅田次郎さんの小説『母の待つ里』はこちら

『母の待つ里』は、浅田次郎さんの5年ぶりの現代小説。カード会社がVIP会員向けに提供した新たなサービス。それは疑似ふるさとで母親と1泊交流するというものだった。申し込んだ3人の男女は、それぞれ偽のふるさとで歓待され、偽の母親と出会う。豊かな自然、母の手料理や寝物語、そして本気で叱りつけてくれるなど、まるで本物の親子のような時を過ごすが……。ふるさと喪失の現代人の孤独と願望をテーマに人間関係の新たな形を示した長編小説を執筆した浅田さんに、同書にかける思いを聞いた。

*  *  *

<ふるさとを、あなたへ><ユナイテッド・ホームタウン・サービスは別荘事業でもホームステイでもありません。失われたふるさとを回復し、過ぎにし日々に帰るという、ライフ・ストーリーの提供です>

 これはあるクレジットカード会社が提供する1泊50万円の「ふるさと体験」の案内である。気まぐれ半分で申し込んだ大手食品会社の社長・松永徹、製薬会社の元営業部長・室田精一、医師・古賀夏生。3人をそこに導いたものは何だったのか。

 浅田次郎さん(70)の5年ぶりの現代小説は、リタイア年代に差しかかった男女のそれぞれの複雑な人生模様を通して疑似ふるさとにおける「親」と「子」の交流を描く。

 引き込まれるのは「親子」の会話の妙だ。古賀夏生に寝物語を語って聞かせるところ。

<もうは、けっぱらねで良(え)えがら、たんと飯さ食(け)で、のへらほんと生きてけろ。おめはほんによぐやった。誰がほめてくれなぐても、母(かが)は力(つから)いっぺえほめてやる。そんで良(え)べ、ナツオ>

「ふるさとのおふくろって無口でなければダメだと思う。ただ無口だけだとキャラクターが出てこないから、民話の語り(寝物語)を入れて、その人となりを表現してみました。実はウチのおふくろはすごいおしゃべり! 都会の人は皆、しゃべり続けてないと人間関係を保てないじゃないですか。田舎の人はしゃべらない。豊かな人間関係と自然があればことばは必要最小限で良いんだから」

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