わかったさんシリーズはただの隠れ蓑。本当に欲しかったのは、宝石のついた指輪でした。それも自分ではなく、母親に。親には仮の望みを伝え、サンタさんにはテレパシーで話しかけました。「サンタさん、あなたならわかるでしょ。本当はお母さんにきれいな宝石の指輪をあげてほしいの。ダイヤモンドでもエメラルドでも、なんでもいい。お母さん宝石なんてちっとも持っていないから、ぜったい喜ぶと思うんだ」。何度も何度も、サンタさんが間違えないように心の中で呼びかけました。そして迎えたクリスマスの朝、絵本の包みを開いて小学1年生の女の子が抱いた失望を、皆様おわかりいただけるでしょうか。

 この世に神も仏もサンタもいるものか、自分に好きなだけ宝石を買えるお金があったらどんなにいいだろう、と幼いわたしは自らの無力さに打ちひしがれました。いまでもその願いは叶っていませんが、それはともかく、子どものわたしは誰かに贈り物をしたくてもその力がないことがひどく悲しかったのです。

 ですからいま、自分の子どもが献金箱に少しでもたくさんのお金を入れようと張り切る理由がよくわかります。人は、自分の手で誰かに贈り物をあげたいものなのです。そのためにテレビが見られなくても、自分のクリスマスプレゼントがなくなっても構わない。自分の力で誰かを笑顔にできるなら、それに勝る喜びはないのです。こうして文字にすると呆れるほど陳腐で恥ずかしいのですが、特に幼い子どもにとっては、これが嘘偽りのない真理なのでしょう。

 クリスマス前は、誰かを笑顔にできる機会がいつもより増えるシーズンです。子どもの頃と比べて少しだけ力を手に入れた自分に、いったい何ができるのか。子どもの純真さを見習って自らの心に問いかけようと思います。

 〇大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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