東京都港区の六本木ヒルズで開いた「フェムテック・フェス 2021」。10月22日から3日間の会期中は大勢の女性たちが訪れた(撮影/写真部・東川哲也)
東京都港区の六本木ヒルズで開いた「フェムテック・フェス 2021」。10月22日から3日間の会期中は大勢の女性たちが訪れた(撮影/写真部・東川哲也)

立ちふさがる霞が関

 19年10月、フェルマータが産声をあげる。2カ月後の12月、3人目のキーパーソンが戦列に加わった。

 近藤佳奈(カナ)。イラストや漫画を通じて嗜好(しこう)が近い人たちと交流するSNSを提供するピクシブに新卒で入った。新規事業の立ち上げや企画営業を担当した後、15年にはディー・エヌ・エー(DeNA)に移籍。動画配信サービスの「SHOWROOM」に配属されたが、この事業が独立したため、そこで4年半ほど働いた。

 カナがフェルマータに移る決断をしたのは、アミナとヒロコが絶妙のコンビに見えたからだ。カナは言う。

「公衆衛生のスペシャリストのアミナは、地球を俯瞰(ふかん)する視点で世の中を変える人。ヒロコは、半径2メートルにいる自分のお母さんやお姉さんがどうすれば幸せになるかを真剣に考える人。そのコンビネーションがいいんです」

 アミナとヒロコは、カナを「仕事師」と呼ぶ。ピクシブを振り出しに数々のベンチャーで実務をこなしてきたカナの経験値は高い。アミナとヒロコはそんなカナをリスペクトし、「カナがいなければフェルマータは回らない」と口をそろえる。

 アミナにはまだ突破しなければならない壁がいくつもある。それは19年夏の出来事だ。

「前例がないので、市場ができたらまた来てください」

 東京・霞が関の厚生労働省を訪れたアミナは、官僚に門前払いされた。この日、アミナが持っていったのは吸収ショーツ。生理用ナプキンは「医薬部外品」、タンポンは「医療機器」と認定されているが、吸収ショーツは「雑品」扱いなので、生理用品の代替品のように売ることができない。広告宣伝で「生理の期間を快適に過ごせます」とうたうことも許されない。

「実績のないものは認可できない」

 これが霞が関の論理である。認可がなければ市場の拡大は遅々として進まない。このあたりが「とりあえずやってみて、問題があれば考えよう」という米国などとの差だ。日本で新型コロナウイルスのワクチン開発が大きく遅れた原因も、そこにある。フェムテックの分野で言えば、潤滑ジェルや子宮脱を防ぐ機器など海外では保険収載が認められている製品も、日本ではまだ承認されていない。

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