
■なんか泣いてしまった
『女のいない男たち』は以前から読んでいましたが、その中のドライブ・マイ・カーという短編が最近映画化されて、見に行ったらすごくよかったです。僕は、映画化は原作とは違う要素が加わった方が面白いと思うほうで。この映画も新しい要素があって。恥ずかしいから言うのどうしようかと思ったんですが、なんか泣いてしまいました。手話で演技をする女性がオーディションを受けるシーンがあって、自分でも理由がわからないんですがそこで泣いちゃいましたね。
『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』のスズキナオさんは、元々東京で働いていて、30代の中盤で思い立って関西に来たそうです。僕は大学が神戸でしたが、大学に入っていいなと思ったのはいろんな地方の人が来ていること。中でも東京から来た人は僕の中では特に面白かった気がします。なんでもある東京からあえて関西に来る選択をした人たちで、大人になって仕事の都合で来る人たちとは、やっぱりちょっと違いますよね。大学時代の東京から来た面白い友人たちを思い出しました。尾辻克彦の短編『父が消えた』の中で、いつもと違う方向に行く電車に乗ったらそれはもう旅だ、という感じのことが書いてあるんですが、スズキさんはずっとそういう感じなのかな、なんて想像して。僕にとって身近な場所や店も多く出てきますが、あ、そういうふうに見るんだ、って新鮮でしたね。
身近なものの中に未知なものや思いがけないものがあったり、思ってもみない遠くに起源があるものと実は自分が関係していたり、本を読むことでそういうのに気づかせてもらえると興奮します。

(編集部・高橋有紀)
※AERA 2021年11月8日号