村上春樹ライブラリーの館内にはカフェやオーディオルームも。「多様な空間で様々なことが語られ新しいものが生み出されていくと期待します」(十重田裕一館長)撮影/写真部・東川哲也
村上春樹ライブラリーの館内にはカフェやオーディオルームも。「多様な空間で様々なことが語られ新しいものが生み出されていくと期待します」(十重田裕一館長)撮影/写真部・東川哲也

 歩行者同士が衝突を避ける仕組みを、歩きスマホから調べた実験で、イグ・ノーベル賞を受賞した京都工芸繊維大学助教の村上久さん。「未知は身近にある」と読書で気づくこともあるという。AERA 2021年11月8日号は、自身と本の関係、自分の中で「両極」に位置すると感じる本を含むオススメ5冊を聞いた。

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 本屋をぶらつくのはわりと好きなんです。京都に住んでいるので、大垣書店とか恵文社とか。いつも面白い本や映画を教えてくれる大学院時代からの先輩や先生がいて、今回挙げた5冊も教えてもらって読んだものが多いです。理工書も読みますが小説や人文系の本も好きで、少し前にハマって読んでいたのがベルクソンという哲学者の本です。

『笑い/不気味なもの』にはベルクソンの「笑い」と、フロイトの「不気味なもの」、この2編に対するジリボンという人の論考と長めの訳者解説が収録されていて、非常に面白いんです。ベルクソンは、笑いというものは生きているものに張り付いた機械的なものだと考察しています。ぎこちない動きや、何回も同じことをしてしまう反復的なものが滑稽な笑いの一例です。一方でフロイトは、反復は不気味さにつながる、と言っていて。

 それに対してジリボンは「枠」という言葉を使って考察していきます。ある種の「枠にはまった振る舞い」が滑稽な笑いには関係しているし、枠が壊れて何者かが外から自分の世界に入ってきてしまうような状況は不気味なものだと。特に訳者解説では、笑いと不気味なものは異質なものでありながら接続されていて、その両方が際立った時に何か新しいものが生まれるのではないかというようなことを言っているんですね。

 イグ・ノーベル賞って「笑って、考えさせられる」研究に与えられるといいますが、笑えてちょっと違和感があるもの、とも取れる。この本で書かれていることともしかしたら似てるんじゃないかなと思ったんです。受賞の知らせが来た後、授賞式までかなり時間があるんですが、その間絶対に誰にも言うなって言われて(笑)、悶々としながらそんなことを考えてました。

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