木村花さんの母・響子さん(右)は3月22日、代理人弁護士とともに会見した。花さんの自死を機に、侮辱罪を厳罰化し、懲役刑を導入する議論が高まった(c)朝日新聞社
木村花さんの母・響子さん(右)は3月22日、代理人弁護士とともに会見した。花さんの自死を機に、侮辱罪を厳罰化し、懲役刑を導入する議論が高まった(c)朝日新聞社

 同罪は公然と人を侮辱した場合に適用され、法定刑は「拘留(30日未満)または科料(1万円未満)」。だが昨年5月、プロレスラーの木村花さん(当時22)がSNSでのネットリンチで自死した事件で、中傷した男2人が侮辱罪で科料9千円の略式命令を受けると、「量刑が軽すぎる」と批判が相次いだ。

 法改正が実現すれば「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」となり、公訴時効も1年から3年に延びる。1907年の刑法制定時以来の大幅な見直しとなり、悪質な書き込みを抑止する効果が期待できるとされる。

 ただ、ネットでの誹謗中傷に詳しい岡崎女子大学講師の花田経子さんは、厳罰化だけでは根本的な抑止効果にはならないと指摘する。

「誹謗中傷のリスクをあまり考えずネットに書き込む子どもたちに、侮辱罪を使って教えるという教育上の効果はあります。ただ、悪意を持ち誰かを誹謗中傷しようという人は、侮辱罪の成立要件を満たさない表現を使い書き込んできます。そういう人には、厳罰化による抑止効果はないと思っています」

 花田さんは、第一に救済策が必要だとし、先に紹介した「誹謗中傷ホットライン」の利用を勧める。

「ネットで誹謗中傷する人をゼロにするのは不可能に近く、意図しない誹謗中傷も起こり得ます。そのためにも、被害を受けたときにすぐ対応してくれるところが必要です。今後は多くの市町村にあるいじめ相談窓口のように、ネットでの誹謗中傷についても相談できる仕組みづくりが重要です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2021年11月8日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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