AERA 2021年11月1日号より
AERA 2021年11月1日号より

 総選挙の火ぶたが切られた。今回は「野党共闘」が初めて成し遂げられ、217選挙区で候補者が一本化された。全国各地で激闘が繰り広げられている。 AERA 2021年11月1日号の記事を紹介。

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 今回の総選挙では野党共闘で217の選挙区で候補者が一本化された。また、前回総選挙の投票結果を見ると、野党候補の合計票が当選した与党候補の票を上回る選挙区が63あった。このうち52の選挙区で、今回は野党候補者が一本化された。

 とはいえ、野党共闘が整っても地元の複雑な事情が絡み一筋縄にはいかない選挙区もある。

 長年、京都1区は自民と共産の重鎮2人が議席を争ってきた。その一人、衆院議長などの要職を務めた自民の伊吹文明氏が政界を引退。その空席をめぐり自民・維新・共産が三つどもえの戦いを繰り広げる。長年伊吹氏と争った共産の大ベテラン穀田恵二氏は、1996年の小選挙区制度導入以降、選挙区では伊吹氏に連敗。比例復活での当選を強いられてきた。今回は事実上の「野党共闘」で選挙区当選を狙う。しかし、京都では野党間の協力体制の構築は非常に難しい事情がある。

 1区に限らず京都は共産と自民がしのぎを削ってきた。96年、そこに第3極として割って入ったのが民主党(当時)だった。その時、新人として乗り込んだのが現立憲民主の幹事長・福山哲郎氏だ。その時は敗北を喫し、2年後の参院選の京都選挙区で当選、現在に至る。実は伊吹氏が引退を表明した後、選挙区を同じくする福山氏が衆院にくら替えするという噂が地元で飛び交った。結局、その話はなくなったが、ある立憲京都府連関係者はこう胸の内を明かす。

「中央で野党共闘の旗の下、共産と選挙区調整をするのは歓迎だが、ここ京都は特殊事情がある。あえて候補者を擁立しないというのがギリギリの決断だ」

■無敗の男が応援に入る

 そんな中、8月にある男が穀田事務所を訪問した。「無敗の男」と呼ばれる中村喜四郎氏だ。自民出身で保守を自任する中村氏は今、立憲民主に籍を置く。「私はオール野党と穀田さんの勝利を訴えにきた」と切り出し、ギクシャクする両党間の融和に一役買った。穀田陣営の幹部は今回は手応えを感じると語気を強める。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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