健康上の理由などで新型コロナウイルスのワクチンを打ちたくても打てない。そんな人たちが、差別や偏見にさらされる。そうした事態を避けるには──。AERA2021年9月27日号の記事を紹介する。

国内でコロナワクチン接種を2回完了した人が全人口の5割を超えた。だが接種は任意。打てない、打たない人への配慮が欠かせない (c)朝日新聞社
国内でコロナワクチン接種を2回完了した人が全人口の5割を超えた。だが接種は任意。打てない、打たない人への配慮が欠かせない (c)朝日新聞社

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「何もできなくなります」

 都内に住む会社員の女性(45)は不安を口にする。

 女性は薬物アレルギーがあり、新型コロナウイルスのワクチンを打ちたくても打てない。しかし最近、ワクチン接種を証明する「ワクチンパスポート」の活用がニュースで流れるようになった。パスポートを持った人は行動制限が緩和され、自由に旅行ができ、イベントにも参加できる。そんな構想を耳にする度に、不安に駆られるという。

■帰省もできないの?

「このままだと自分は県境もまたげない、出張もできない、帰省もできない。映画にもデパートにも、美容院にも行けなくなるかも。国民を管理するようなことを現代の日本でやるはずがないと思っていたのですが。こうやって、人権はなくなっていくんだなと思います」(女性)

 2回のワクチン接種を完了し、つらい副反応も乗り越えた人の中には、パスポートを歓迎する声もある。人の流れを緩和して「ウィズコロナ」を目指すべきだとの意見も出ている。だが、この女性のように健康上の理由で打ちたくても打てない人、副反応などが心配で未接種の人たちからすれば、パスポートは「分断」の象徴に映る。

「ワクチンパスポートの具体的な運用によって、体質的にワクチンを打ちたくても打てないなど、少数派の人権がないがしろにされる側面があると思います」

 そう指摘するのは、人権問題に詳しい佐藤みのり弁護士だ。

 ワクチンは社会生活を正常に戻していくためには必要で、接種者の行動制限を緩和していくことには一定の合理性はある。法的には、接種者に「利益」を与えることは、一律に許されないとは言えない。しかし、未接種者に「不利益」を与えることは、少数者に対する差別や偏見につながりかねないという。

「不公平感が増し、社会の分断を招くことになると思います」(佐藤弁護士)

 日本は全てのワクチンが任意接種で、「打たない自由」がある。だが、「新型コロナのワクチンは打つべきだ」という同調圧力を感じる人も増えている。

「毎日のように『ワクチン打った?』って聞いてきてつらい」

「打つのが当たり前になってきて変な目で見られる」

 SNSなどには、ワクチンを打てない人のこんな書き込みが散見される。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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