米スマホ証券「ロビンフッド」は2015年に手数料無料のサービスを開始。20年春にはわずか3カ月で300万人の顧客を獲得した(写真:gettyimages)
米スマホ証券「ロビンフッド」は2015年に手数料無料のサービスを開始。20年春にはわずか3カ月で300万人の顧客を獲得した(写真:gettyimages)

 日本ではまだ投資をする人は少ないかもしれない。だが、スマホでの取引に特化した「スマホ証券」の登場でその状況が変わりつつある。先駆けである米国ではスマホ証券を利用した若者の取引が活発化している。AERA 2021年9月27日号から。

【図】「スマホ証券」主要5社を徹底比較

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「貯蓄から投資へ!」

 1990年代末~2000年代。「日本版金融ビッグバン」と呼ばれる改革が進められたころから、政府はこのスローガンを掲げてきた。日本人の金融資産が預貯金に偏重し、欧米と比べて投資のウェートがはるかに低かったからだ。ゼロ金利政策もあり、もはや預貯金で増やすことは不可能になっていた。

 それから20年。投資の世界に足を踏み入れる日本人はいまだ少数派にすぎない。ところが、人々の生活スタイルを一変させたスマートフォンが、日本人と投資との距離を一気に縮めようとしている。いわゆる「スマホ証券」が続々と登場し、若者を中心に人気を集めているのだ。

AERA 2021年9月27日号より
AERA 2021年9月27日号より

 スマホ証券とは、その名の通り、スマホを通じた取引に特化した証券会社のこと。専用アプリをダウンロードすれば、手のひらの上だけで株式などの取引が完結する。オンライン取引と言えば、ネット証券を連想する読者も多いだろう。だが、スマホ証券は似て非なる存在だと、ファイナンシャルプランナーの高山一恵氏は指摘する。

「ネット証券もスマホで取引できるアプリを提供しています。ただし多彩な機能が搭載された本格的な仕様で、どちらかと言えば中・上級者向きです。これに対して、スマホ証券のアプリは、必要最低限の機能に的を絞ったシンプルな設計です。初心者でも直感的な操作で簡単に株式などの売買が可能です」

■ロビンフッドが先駆け

 日本に先駆けてスマホ証券が席巻したのは、やはり米国だ。「ロビンフッド」というフィンテック企業が開発した投資アプリが、爆発的にヒットした。

 SNSやスマホゲームと同じ感覚で簡単に操作でき、しかも売買手数料が無料。若い世代を中心に高い支持を獲得している。さらに新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済の悪化を踏まえ、世界的に大規模な金融緩和が実施されたことも、絶好の追い風となった。

 つまり、金融緩和で巷(ちまた)に大量供給された資金が株式市場に流れ込み、株価の上昇が顕著になった。株式投資に乗り遅れまいと、関心が高まったわけだ。もともと米国では株式投資が比較的身近な存在だったが、コロナ禍とロビンフッドの登場が重なったことで、投資家層のすそ野がさらに広がった。新たに投資家デビューを果たした若者たちを「ロビンフッダー」と呼んでいるという。

(金融ジャーナリスト・大西洋平)

AERA 2021年9月27日号より抜粋

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大西洋平

大西洋平

出版社勤務などを経て1995年に独立し、フリーのジャーナリストとして「AERA」「週刊ダイヤモンド」、「プレジデント」、などの一般雑誌で執筆中。識者・著名人や上場企業トップのインタビューも多数手掛け、金融・経済からエレクトロニクス、メカトロニクス、IT、エンタメ、再生可能エネルギー、さらには介護まで、幅広い領域で取材活動を行っている。

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