歩く時は、前腕にはめるタイプの杖を使う。「障害者になってからのほうが、心も表現も自由になった」(撮影/篠田英美)
歩く時は、前腕にはめるタイプの杖を使う。「障害者になってからのほうが、心も表現も自由になった」(撮影/篠田英美)
4月のサーカス本番(写真は内覧会。本公演はコロナ禍で中止)、腕組みして見守る栗栖。練習時の口出しは少ない。演者やスタッフが自発的に意見を出すまでじっと待つ(撮影/篠田英美)
4月のサーカス本番(写真は内覧会。本公演はコロナ禍で中止)、腕組みして見守る栗栖。練習時の口出しは少ない。演者やスタッフが自発的に意見を出すまでじっと待つ(撮影/篠田英美)

 SLOW LABELディレクター、栗栖良依。高校1年のときにテレビで見たリレハンメル冬季五輪の開会式に感動し、栗栖良依は自分も五輪の舞台を作りたいと夢見てきた。イタリアにも留学し、夢に邁進していた32歳で骨肉腫に。手術で右脚の機能を失ったが、新たな人生が待っていた。障害者と共に作るパフォーミングアーツと出合い、真の多様性を考えてきた。東京オリパラの舞台も踏み、次を見据える。

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 4月24日、街が薄暮に染まる頃、東京・池袋の野外ステージに、色彩豊かな衣装を纏(まと)った虫たちが現れた。「スローサーカスプロジェクト」によるサーカス公演「T∞KY∞(トーキョー)~虫のいい話~」の始まりだ。

 これは、「ソーシャルサーカス」と呼ばれる、障害のある人もない人も一緒に舞台に立ちサーカスを行うもの。ソーシャルサーカスの源流は、ブラジルで始まった、貧困・移民・虐待・障害など困難を抱えるマイノリティの社会性を育み、社会に送り出す活動。ヨーロッパで普及し、体系化された。

 そのソーシャルサーカスを日本に初めて持ち込んだのが、多様性と調和の取れた社会を目指す「スローレーベル」というNPO法人を立ち上げた、栗栖良依(くりすよしえ)(43)だ。サーカス・アートのワークショップや教育、舞台公演、国際展の企画、ものづくりなどを行う。2017年に国内外100人の市民が出演する野外サーカスを発表する過程で「シルク・ドゥ・ソレイユ」が開発したメソッドを知り、その後ソーシャルサーカスに注力してきた。

「虫のいい話」では、車いすのパフォーマンスや、空中芸、光るコマを使うジャグリングや巨大ボールのショーなどが次々と展開し、目を楽しませる。

 舞台では、こんな場面があった。道化師役でダウン症の小川香織(26)が、出演者の肩の上に立ち、背面に倒れるパフォーマンス。見えない側へ倒れるため、恐怖心が先立つ。リアルに心配する演者から、「頑張れー」という声がかかる。すると小川は、「よし、行くか」と意を決し、スーッと後ろに倒れた。成功は、後ろに控える仲間の演者が「ちゃんと自分をキャッチしてくれる」という信頼感があればこそ。チームの絆が垣間見えた。

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