■開催中だから強い対策を打てなかった

――政府は五輪開幕後に東京都などの緊急事態宣言を延長し、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象となる地域を2回にわたって増やした。対象地域は8月8日から19都道府県になる。

 緊急事態宣言の延長は下手な対策です。

 緊急事態宣言を出していても感染者が減らなかったのですから、本来ならもっと強い対策が必要です。なのに、対象地域を拡大しただけで、内容は従来の対策を延長しただけ。昨年来、何度も繰り返してきてわかるように、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も時間が経つほど人々が慣れてしまって順守意欲が落ち、効果がなくなります。

 もっと強い対策を打ち出せなかったのは、五輪を開催中だからでしょう。

「強力な感染対策を取って皆さんの生活を制約します。でも、五輪は自宅で楽しみましょう」。そんな矛盾したメッセージを出すのは、そもそも無理だと思います。

■パラ中止なら近代五輪史上の汚点
 
――全国の新規感染者数が5日には初めて1万5千人を超えるなど、日本中で流行が拡大する中、24日には東京パラリンピックの開幕が予定されている。

 懸念されるのは、パラリンピックの中止です。

 五輪を強行した結果、感染の爆発的増加がさらにひどくなり、パラリンピックが開催できなくなってパラアスリートたちの大会が犠牲になるようなことが起きれば、近代五輪史上の汚点です。倫理的に一番避けるべきことだと思います。
 
 一方で、感染状況がひどいのにパラリンピックを強行し、国内の感染対策は「現状維持」という名のもとの実質緩和になって感染状況がさらに悪化するというのも、避けるべきひどいシナリオです。

 第5波の感染爆発は、昨年来、政治家や政府の専門家会議のメンバーの発言に国民が何度も裏切られ、もはや何を言っても国民に伝わらなくなった挙句の果ての結果です。この1年で政治家や専門家の言葉がどんどん軽くなり、メッセージに力がなくなっています。

 だから、国民も飲食店も言うことをきかない。しかも、酒類の提供自粛に応じない飲食店に取引している金融機関から順守を働きかけさせようとするなど無理な方法で抑え込もうとして、かえって反発を買う結果になりました。

 現状を改善するためには、五輪に参加した選手から国民にメッセージを発信してもらったらどうでしょうか。

 アスリート仲間のために、パラリンピックが中止にならないよう、「パラリンピックを安全に開くために、お願いですから外出は控えて下さい」と発言してもらうのです。政治家や専門家の発言よりずっと人々に伝わる可能性が高いと思います。

※インタビューは8月2日に行い、その後、感染状況などをアップデートしています

(構成/科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

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