■潜在的な願望を言った

 だが、夢を叶(かな)えるのはたやすくなかった。

「子どもが生まれて忙しくなり、コロナで国外の受験会場にも行けず、目標は叶いませんでした」

 なぜ人びとは東京五輪を意識したのか。ニッセイ基礎研究所の上席研究員、久我尚子さんは当時の情勢をこう分析する。

「東日本大震災から2年が経ち、五輪が決まり、五輪関係のビジネスが盛んになり、景気が上向く期待感がありました。五輪は幅広い競技が網羅され、多くの人が楽しめる。みんながハッピーになる予感で高揚し、潜在的な願望を口にしたのではないでしょうか」

 実際、招致が決まる前から、結婚したい若者は多かった。10年の国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」をみると、若年層に結婚の意思を尋ねた項目に、男女とも9割近くが「いずれ結婚するつもり」と回答。微減傾向にあるものの、1980年代と比べても高水準を保っている。

「草食、絶食男子が取りざたされ、未婚化、晩婚化が進行するなか、五輪までに結婚したいという若者の反応に驚いた人が多かったのではないでしょうか。でも、大半の若年層は結婚を望み、先延ばし意識も薄らいでいるのです」(久我さん)

 でも、東京五輪に向けて、婚姻数、出生率は伸びなかった。

「必ずしも賃金が上昇しているわけでなく、依然として結婚しにくい状況です。働き方改革で出産後も働き続けやすくなったかもしれませんが、コロナ禍には産み控えもありました」(同)

 あなたが想像した“未来”はいま、どうなりましたか?(ライター・井上有紀子)

AERA 2021年7月12日号より抜粋