「かつては日本高血圧学会の推奨する値に従い、『毎日6グラム未満』に塩分を抑える減塩法を指導していました。しかし、一時的に成功しても、大半はすぐ元通りになってしまう。ズボラな人もできる減塩法はないかと考えていたところ、あるヒントを得て思いついたのです」

 それは、高血圧患者である中華料理店経営者の一言だった。

「店を閉める頃には、もう塩味がわからなくなっているんです」

■果物や野菜で塩分排出

 料理の味見をし続けるため、濃い塩味もわからなくなる。ならば、逆の発想で、薄味生活で味覚をリセットすれば、従来の食事を塩辛いと感じるようになるのではないか。ずっと減塩は困難でも、短期間なら頑張れるのではないか。

「1週間にしたのは、味覚がリセットされるのに5~7日程度かかるから。しかし、血圧に問題がない人は3日でも構いません。大切なのは、毎月繰り返すことです」

 渡辺医師の患者には「1日の塩分摂取量38グラム」という“猛者”もいたが、反復1週間減塩法でみごと薄味嗜好になった。外来では、患者の食事記録などから、なぜ塩分量が増えたかを考える反省会も行っている。

 つらそうに思える減塩生活だが、管理栄養士で横浜創英大学名誉教授の則岡孝子さんによると、食べ方の工夫で減塩のつらさは軽減できるという。

「レモン汁やスダチ、酢などの酸味、大根おろしやカイワレ大根のような辛味のあるもの、大葉やミョウガといった薬味と合わせる。ワサビや胡椒、唐辛子、辛子も物足りなさを補います。また、果物や野菜に豊富なカリウムを同時にとることで、塩分の排出が高まります」

(編集部・藤井直樹、ライター・羽根田真智)

AERA 2021年6月28日号