デモの2日前、武蔵野市の松下玲子市長(50)がツイッターでこうつぶやいた。

「井の頭公園で開催予定の東京2020ライブサイトは中止すべきです」

 瞬く間に拡散され、4千件以上の「いいね」がついた。松下市長は同日に東京都に中止の要望書を提出し、市民からは賛同の声が相次いだという。

「通常は賛否が分かれることも多いですが、今回は違いました。こんな反響は今までにありませんでした」

 市の担当者はそう説明し、決断の裏側を明かす。

「五輪には武蔵野市出身の選手も出場するので、コロナがなければ諸手を挙げて開きたかった。ただ、現実的ではないと思うことも多く、職員からも声を上げなくていいのかという意見がありました。人流抑制をお願いするなかでのライブサイト開設は市民に説明がつきません」

■五輪の装飾は「挑発」

 井の頭公園は三鷹市にもまたがり、ライブサイトは同市のエリアに設置される。武蔵野市が中止を要望する一方で、三鷹市は規模縮小の要請とあいまいな対応にとどまっている。共同で要望を出すことも検討したが、折り合わなかったという。

 揺れているのは井の頭公園のほかにもある。

 新宿駅から電車で約40分。京王線南大沢駅から少し歩いたところに、東京都立大学南大沢キャンパスがある。大学で唯一、PV会場として指定される同大正門に向かう階段には「TOKYO2020」のラッピングが施され、五輪の歓迎ムードが漂う。

 だが、階段を上る学生の足取りは重い。

「大学が学生に制限をかけている状態で、PVはありえない。階段の装飾も挑発しているようにしか思えません」

 そうこぼすのは、同大システムデザイン学部3年生の男子学生(21)だ。新型コロナの感染拡大以降、大学で授業を受けるのは週1度の実験のみ。それ以外はオンライン会議システム「Zoom」を使って受講している。

「昨年の前期は部活動が一切できず、今も1日4時間以内の活動制限があります。他大学の学生を入れて試合することもできません」

 それなのに、大学の講堂では午前11時から午後6時まで、7時間のPVが予定されている。

 教職員からも批判の声が上がる。同大労働組合は2日、大学に対し、PV中止を求める声明を出した。

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大学は都知事へのトラウマ