「学生に不便を強いるのに、五輪は特別というのはおかしい」

 そう指摘するのは、組合の小林喜平書記長だ。授業や課外活動が制限され、なかにはアルバイト先の休業で経済的に困窮する学生もいる。学生たちの生活がままならないのに、大学が「祭り」に協力することに憤りを感じている。

「この状況下で感染拡大の原因となりうるPVの開催がおろかであることは自明です。大学で理屈に合わないことはしてほしくありません」

 コロナ禍以降、同大はTOEICといった英語民間試験などへの会場貸し出しを停止している。試験での会場提供とPVの違いはどこにあるのか。同大広報係に問い合わせると、

「東京都設置の大学として、都に施設提供を行うこととしています」

 と明確な基準の回答は得られなかった。

■都知事へのトラウマ

 また、感染状況などをふまえ、実施を再検討するかどうかについても尋ねたが、

「PVの実施主体は東京都であり、大学は施設提供を行うのみで、中止等の判断をする立場にございません」

 大学はあくまでも施設を貸すだけだという。

 感染拡大のリスクがあるのに、なぜ貸し出しを止められないのか。同大に勤める教授が匿名を条件にこう打ち明ける。

「大学の教職員の間には、都知事の機嫌を損ねると怖いという思いがあります。うまくやらなければ、また都知事に潰されてしまう」

 さかのぼること16年、東京都立大学は他の都立3大学・短大と統合され、石原慎太郎都政下の2005年に首都大学東京に名称を変更。だが、大学名が浸透せず20年に東京都立大学へと名称を戻した。このときの騒動が同大にとってトラウマになっているという。

「五輪開催が決まった以上はやればいいと思っています。ただ、PVを学内でやるのは疑問です。日本人の命よりスポーツを優先したことが明らかですし、我慢し続けた学生たちの心が折れてしまわないか心配で仕方がありません」(同教授)

 7日には埼玉県が、翌8日には東京都墨田区がPVの開催中止を決定。9日の衆院厚生労働委員会では、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長(72)が応援イベントについて言及し、

「感染がかなりのレベルで進むなか、他の方法でも応援はできる」

 とPV開催を控えるよう訴えた。10日には千葉県もPVの開催中止を発表した。

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都「中止の検討はしていない」