そのユーモラスな作風から、「日本最古の漫画」と考える人もいる鳥獣戯画。その甲巻には、カエルが大きく息をついたことを表現する記号が描かれ、これが「日本最古の漫符」と言われることもあるそうだ。

 さらに19年に大英博物館で開催された「Mangaマンガ」展では、こうのさんの手から生まれたギガタウンのキャラクター「みみちゃん」が展覧会の案内役を務め、鳥獣戯画と、そのオマージュでもあるギガタウンが、展覧会のシンボル的存在として注目を集めた。

■平安~鎌倉時代の作品

 そんなこうのさんはこの日、鳥獣戯画のオリジナルを初めて鑑賞。その“歴史的”瞬間を詳しく紹介する……前に、誰もが知っているようで知らない鳥獣戯画について復習しておこう。

 教科書などで、その絵柄はほとんどの人が目にしたことがあるだろう。現代でも通用するポップなキャラクターに目を奪われて忘れている人も多そうだが、今からほぼ9世紀も前の平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて描かれたことがわかっている。

 甲乙丙丁の4巻に分かれた作品は京都にある高山寺(こうさんじ)に代々伝わってきたが、それぞれのパートが誰の手で描かれたのか、どういう意図で描かれたのかなど、わかっていないことも数多い。

 平安時代の有名な僧侶でありながら、絵を描く技術を持ち、戯画も手がけたと言われる鳥羽僧正(そうじょう)という高僧が、一部を描いたという説もある。江戸時代に描かれた漫画チックな絵を呼ぶときに使う「鳥羽絵」という言葉の元になった僧侶だが、実際には鳥獣戯画に関わったという史料はなく、違う時代を生きた複数の作者が描いたもの、ということだけが知られている。

 描かれているモチーフにも謎が多い。例えば私たちが鳥獣戯画と聞いて真っ先に思い浮かべる、ウサギやカエル。このキャラクターが出てくる甲巻と呼ばれるパートだ。11メートルの作品を動く歩道に乗って右から順番に見てもわかるように、そこにはこんなストーリーが展開していた。

 まずはウサギとサルが水遊びに興じる場面からスタート。鼻をつまんで岩からダイブするウサギがいれば、ノミ取りに夢中のサルのカップルがいたり。続いて場面は、ウサギチームvs.カエルチームの、弓の腕比べ会場へ。やがて、腕比べの打ち上げ用なのか、ウサギやカエルがお酒やごちそうを運ぶ場面が登場。寝坊でもしたのか、弓を担いで大慌てで会場に向かうウサギの姿も見える。

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サスペンス風の場面も