■サスペンス風の場面も

 その後、シカやイノシシなど豪華な贈り物を受け取るサルの僧侶が出てきたり。かと思うと、1匹のカエルが気絶してひっくり返り、容疑者が事情聴取を受けるサスペンス風の場面が出てくるなど、11メートルの絵のなかに、めくるめくさまざまなできごとが詰め込まれている。

 こうした絵巻が4巻分。甲乙丙丁の各巻を比べて見ることで、謎を解くヒントになることもあるというのは、前出、研究員の古川さんだ。

「パートをまたいで関連性のあるモチーフも多い。例えば甲巻では、人間の法会の様子を、サルを僧侶に置き換えて描いている。一方、その後描かれた丁巻では、甲巻をなぞる形で今度は人の僧侶が描かれるという二重三重のパロディーが展開されているのです」

 そろそろこの辺で、会場内の一つひとつの作品を食い入るように見ているこうのさんの元へ。

「これまで鳥獣戯画を語ると、どの巻の絵が上手いとか下手という画力の話になってしまうことが多かった。今回は絵巻物を巻いたり、ページをめくったりする作業が無く、流れるように見られる作品もあるので、ストーリーの妙という新たな魅力に気がつきました」

 こうのさんにそれぞれの巻を解説してもらった。

 まず甲巻だ。前述したように、楽しそうに遊ぶウサギとカエルがたくさん登場する、ザ・鳥獣戯画といった作品。ちなみにネコやネズミなどのレアキャラも見える23枚の紙をつなぎ合わせた絵巻物となっている。

「今はその部分が抜けていますが、最後はヘビがやってきて、みんなが逃げていく丙巻と同じエンディング。この部分のように長い時を経て、紙をつなぐ順番が変わってしまったり、離れてしまった部分だけが1枚の作品として掛け軸になったりして、本来の姿がわからない部分があるのです。原画は不自然につないだ場所が印刷物より目に付くので、なんでココとココをつないだのだろうなど、新たな疑問がたくさん生まれました。早く家に帰ってじっくり、つなげ替えをしてみたい衝動に駆られていますね」

 こうのさんが考える甲巻の作者像は、誠実なエリート絵師。「実物を見るとかなり上質の紙で、それを臆せずのびのびと使っています。フジバカマなど背景の植物や場面転換の手法も描き慣れていて、ただ者ではありません。この立場にある者が、あえてこのほのぼの楽しい世界を描くことに対する責任感のようなものも感じられる」とこうのさん。

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気難しいが絵は上手い