「自分のことしか考えていない」

 沿線は四季折々に美しい風景が見られることで有名だ。とりわけ3月から4月にかけて桜と菜の花が一斉に咲く時期になると、マナー違反の撮り鉄たちが出没する。菜の花畑に立ち入ったり、線路内に入って列車が徐行や停止したりしたこともあるそうだ。鉄道係員を巡回させていたが、注意すると、

「あんたは警察か」

 などと逆ギレされたという。

「マナーを守らない人は、お客でも鉄ちゃんでもありません」(同社幹部)

 迷惑行為をする撮り鉄は、ごく一部にすぎない。だが、それにしても、ここまでマナーが崩壊したのはなぜか。

 鉄道ジャーナリストの松本典久さん(66)は、こう指摘する。

「基本的なルールを知らない人が増えた」

■一般常識の欠如が露わ

 例えば、ホームで三脚や脚立を立てるのはNG。ホームの柵を越えたり、線路に下りたりするのはもってのほか。駅間では鉄道用地内に立ち入らない。鉄道用地の境界が明瞭でない場合は架線柱の外側が目安。鉄道用地以外でも個人の私有地に立ち入らない。耕作地は私有地。農道などの利用は、あくまでも作業者が優先……。

 こうしたルールは一般常識のはず。だが、不幸にしてそれが欠如したまま今に至ってしまったのかもしれないという。

「私が子どものころに参加した鉄道の撮影会では、随行員や現場の方から危険に対する注意事項の説明があった。個人で機関区など鉄道の現場を訪ねることも多かったが、必ず事務所で申告し、名前を記帳してヘルメットを貸してもらった」

 かつてはこうした経験の積み重ねで、危険に対する知識や撮影上のルールやマナーを身につけていったという。しかし、今はネットで簡単にイベントの日程や撮影ポイントが把握できる。マナーの継承ができなくなっているというのだ。(編集部・野村昌二)

AERA 2021年5月17日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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